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概要
Awodey
[1]の演習問題を解いていたところ,選択公理と同値な
命題を見付けたので証明を試みました.手許の文献でこの同値性に言及している
ものはなかったと思います.
準備
以下では,圏Posとは,半順序集合(partially
ordered set,以下poset)を
対象,その間の単調写像を射とした圏であるとします.
恒等写像は明らかに単調ですし,単調写像と単調写像の合成が再び単調となるこ
とからこれは実際に圏となります.
圏Cの対象Pが射影的(projective)であるとは,任意の
対象E,X∈Cと射f:P→Xおよびエピ射e:E↠Xが与えら
れたとき,次の図式を可換にする(一意とは限らない)射f^:P→E
が必ず存在することである.
射影的対象の概念を用いて,選択公理を言い換えたものが以下です.
以下の命題は選択公理と同値.
圏Sets
の任意の対象は射影的である.
Proof. @alg-d さんのサイト
[2]を参照.
圏Posのエピ射は全射単調写像と完全に一致する.
概略. eがエピ射でないとすると,he=h′e かつ h=h′なる射が存在し, eの定義域の外にh(x)=h′(x)なるxが存在することになり全射となら
ない.また,エピ射かつ全射でない単調写像eが存在したとすると,e の定義域の
外から一点を取り,その行き先を上手く違えた h,h′ を取ってやることで矛
盾を導くことが出来る.
また,以下では次の事実を用いる.
通常の集合Sは,離散poset,即ち,各元x∈Sについての反射律のみ
を仮定して得られる poset と見做すことで Pos
の対象と見做すことが出来る.
PosとSetsの関係
以下の命題は選択公理と同値.
集合を離散 poset と見做すことによって,Sets は Pos の射影的対象
からなる充満部分圏となる.
Proof.
必要性.
集合の間の写像は,対応する離散 poset の間の単調写像と見做すこと
が出来るので,結局はPosの射影的対象と離散posetが一致すること
を示せばよい.
まず,任意の集合SはPosで射影的であることを示そう.Sを集合, 即ち離散poset,E,Xを任意のposetとし,単調写像f:S→Xおよ びエピ射e:E↠Xが与えらえているとする. 今,poset A に対応する台集合を∣A∣,単調写像fの台写像を ∣f∣で表わすことにすると,定理2よりPosでの
エピ射は全射でもあることに注意すると,Setsで次の図式を可換に
する射f^:∣S∣→∣E∣が存在する.
あとは,∣f^∣が単調写像となっていることを示せばよい.Sは
離散posetより,成立する順序関係は反射律のみであるので,特に ∣f^∣(a)≤∣f^∣(a)が云えればよい.しかるに,Eは
posetであったので反射律が成立し,特に∣f^∣(a)≤∣f^∣(a) が常に成立している.よって∣f^∣は単調写像. よって状況をPosに引き戻して
が可換となる.よって任意の集合はPosで射影的である.
逆に,P∈Posを射影的対象とする.Pの元からなる離散posetを dis(P)と書くことにする.写像
i:dis(P)↠P を i(a)=aで定めると,これはは明らかに全射単調写 像であり,従ってPosのエピ射である.よって,以下を可換にするよ
うな 1^P:P→dis(P)が存在する.
すなわち,i∘1^P=1Pである.特に∣P∣=∣dis(P)∣ であり,定義から∣i∣=1∣P∣=1∣dis(P)∣となる.すると, ∣1^P∘i∣∴1^P∘i=∣1^P∣∘∣i∣=∣1^P∣∘1∣P∣=∣1^P∣=1∣P∣∘∣1^P∣=∣i∣∘∣1^P∣=∣i∘1^P∣=∣1P∣=1∣P∣=1∣dis(P)∣=∣1dis(P)∣=1dis(P)in Pos よって,1^PはPosでの同型射となる.今,dis(P)は離散 poset
だったので,それと同型となるPもまた離散posetとなる.
以上より示された.
十分性.
Posの射影的対象と離散posetが一致すると仮定する.今,Factより
任意の集合Aは離散posetと同一視出来る.すると,A
はPosで射影
的であり.他の集合E,XもPosの対象と見做せ,その間の全射
e:E→Xと写像f:A→Xが存在すれば,それらはposetとして のA,E,X間の単調写像と同一視出来,とくにeはPosでエピ射と
なる.すると,それらに対して下の図式を可換にするf^:A→E が存在する.
再びSetsに戻って考えれば,これは任意の集合は射影的であると云
うことであり,定理1より選択公理が従う.
参考文献
[1]
S.
Awodey, Category theory, vol. 52. Oxford University Press,
2010.