概要
Shelahは実数の集合の性質に関する記念碑的論文 [1]において滅茶苦茶いろいろな事を示していて本当にヤバいんですが,その中で一節割いて「Cohen実数を付加するとSuslin木も足される」という事を示しています. 原論文における構成は結構煩雑に見えますが,後にTodorčević [2]は彼の発明したminimal walkの手法を用いて自然で比較的簡単な構成を与えました. minimal walkの手法はAronszajn木の構成にも使えますが,これとCohen実数を単に合成してやる事でSuslin木が得られるのです. 本講演では,まず背景となる話題を紹介した後,これまでにやってきた強制法の応用例としてこの手法を紹介します.
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背景:直線の姿を予想する──Suslin予想
現代的な一般位相空間論では,よく可分性が問題になりますが,初期にそれと並んでよく採り上げられていたのが可算鎖条件 (countable chain condition; c.c.c.)でした:
位相空間が可分 は稠密な可算部分集合を持つ.
位相空間が可算鎖条件(countable chain condition; c.c.c.)を持つ の互いに交わらない開集合の族の濃度は高々可算. 言い換えれば,の非可算個の開集合から成る任意の族に対し,となるが必ず存在する.
任意の擬順序集合はその開集合代数に稠密に埋め込めるので,擬順序に関するc.c.c.は位相空間のc.c.c.の特別な場合になっています.
位相空間が可分であればc.c.c.を持つことはすぐにわかります:
位相空間が可分ならc.c.c.を持つ.
Proof. をの可算稠密部分集合とし,をの開集合から成る族とする. このとき,の稠密性から各に対し,となるが取れる. そこでとおけば,の正則性から少なくとも一つのについては非可算でなくてはならない. よってそこからを取れば.
では逆はどうか?というと,に積位相を入れたものが反例になります:
とするとき,に直積位相を入れた空間はc.c.c.だが可分ではない.
Proof. まずc.c.c.を示そう. 基本開集合から成る任意の族を適当に取ってきて, 交わりを持つ二元が取り出せれば良い. まず,各はとがあって,の形で書けていました. このをの台(support)と呼びましょう. 各はその台上での所属関係だけしか気にしない,という訳です. また,直積成分には離散位相が入っているので,各は関数と同一視出来ることに注意しましょう.
そこでの部分集合の族を取ると,-システム補題からでが-システムを成すものが取れます. 即ち,があって,どんなに対しても,となるようなものが取れます. これはどういう事かというと,から相異なるを取ってきた時に,条件が競合する場所は上だけになっている,という事です. この時,上での基本開集合の組み合わせは高々通りしかないのに対し,たちは個もありますから,正則性から適当なが取れて,ならとなるように出来ます. よって,とすれば,となります. 以上よりはc.c.c.を満たします.
最後に可分でない事を見ましょう. 可算列を任意に取って,これと交わらない空でない開集合を与えれば良いでしょう. この時,に対して,列の総数は高々個ですから,なので鳩ノ巣原理からで任意のに対してとなるものが取れます. そこで,とおけば,は空でない開集合です. すると,の取り方から任意のに対しが成り立つので,となります.
では順序位相に限定した場合はどうでしょうか? 実数直線は可分な全順序位相空間として有名です:
を次を満たす全順序位相空間(i.e. に対し区間が生成する位相)とする:
は端点を持たない稠密全順序,
は位相空間として連結で可分.
この時,.
Suslinは「可分をc.c.c.で置き換えても同じ事が言える」と予想しました:
c.c.c.だが可分でない全順序位相空間(Suslin直線)は存在しない.
連結とか稠密とかが落ちていますが,適当に完備化とかを取れば同値になります.
これはまだ位相空間論的な概念ですが,木の概念を使うことで集合論的に言い換えることが出来ます:
が木(tree) は始切片について閉じている:.
が鎖 はの全順序部分集合.
が反鎖任意の, に対しかつ.
に対し,をのにおけるランクと言う.
をの高さと呼ぶ.
.
が共終鎖 はの鎖で,.
が-木 かつ任意のに対し.
が-
Aronszajn 木 は-木で鎖は全て濃度未満. -Aronszajn木をAronszajn木と呼ぶ.が(-)Suslin木(またはSouslin木) は(-)Aronszajn木で,の反鎖は濃度未満.
Suslin直線の存在とSuslin木の存在は同値
Proof. See §III.5 of Kunen [3].
よってはSuslin木があるかないか,という問題に帰着されます. 実はは上独立であることがわかっています. 今回扱うのは特にの無矛盾性,つまり「Suslin木がある」方向の結果です.
Cohen実数はSuslin木を付加する
Cohen強制法はSuslin木を付加する.
まず次の補題を認める:
これを認めた上で先に定理1を示す. まず,このような列からAronszajn木が作れることを見ておく:
補題1のようなに対し,はAronszajn木となる.
Proof. まずが-木となることを見る. の第レベルはと書け,明らかになので,は良い. また,条件 (2)からならなので,結局よりは可算. 以上よりは-木である.
最後にが非可算鎖を持たないことを示そう. そこでが非可算鎖だったとすると,共終性からとなる. しかし,条件 (1)よりの各元は有限対一写像なので,その貼り合わせであるはからへの有限対一写像となってしまうので矛盾.
Proof of Theorem 1. で補題1の性質を満たすを取り,を上のCohen実数とする. この時,Cohen強制法はc.c.c.を満たすのでたちは上でも依然として補題の条件を満たすことに注意する. この時, がでSuslin木となる事を示そう.
まず,上と同様にであり,前の補題と同様にしてが-木になることが従う.
次には非可算反鎖も可算反鎖も持たないことを示そう. でを任意に取り,これが両立する二元も両立しない二元も含むことを示せばよい. 簡単の為,以下であるとしよう. のちほど稠密集合を使った議論をしたいので,まずはがに列として入っているとして良いことを見よう. そこでとおけば,各についてが成り立つ. このとき,であり,なるは可算個しかないので,少なくとも一つのは非可算となる. よって,最初からこのの元に範囲を取り直せば,であるとしてよい.
斉一性の条件 (2)より,各が両立するか否かは,その有限桁だけ見てやればよい. そこで,の値が一致する範囲を表す記号を導入する: この記号を使えば,が反鎖でも鎖でもない事を示すには,以下の二つの集合がそれぞれで稠密となることが示せればよい: 実際,がで稠密なら,においてでとなるものが取れ, 証拠となるを取ればであり,よりとなり,これがの両立する二元となる. 同様にに属すが取れれば,証拠となるについてとなるので,これら二元は両立しない.
あとは, がそれぞれ稠密となる事がわかればよい. そこでを固定する. 適当なをとってきてしまうと,で決まっている範囲で既にとが異なってしまうかもしれない. そうした場合を排除するためにたちを取り直そう. まず,未満の値を取るがとで一致するようなが非可算個とれることを見よう.
そこでと置けば,各が有限対一写像である事よりは有限集合となる. よって-システム補題をに適用すれば,とでとなる物が取れる. この時,の候補は可算個しかないので,鳩ノ巣原理からとなるようにを取り直せる. 一々と書くのは面倒なので,そもそも始めからはこのように取れているとして以下議論を進めていく. そこで,を取り,を長さまで拡張する事を考えよう.
まずに属する元を取りたい. となるようなが共に以上であれば, によって潰せば良い. もし少なくとも一方が未満であれば,同じ行き先に行くように潰してやればよい. 各たちが単射である事に注意すれば,定義からであり, である.
最後にに入るように延ばせる事を見る. この時,相異なるでを満たすものが取れる. なぜなら,もし仮に任意のに対しとなるのであれば,適当なを取って, と定めてやれば,族は依然として仮定 (1), (2)を満たす. しかし,この時はの鎖となり,補題2に反する. よって,を満たすが存在する. そこでの少なくとも一方が以上となるようなを取る. この時,に対し, とおけば.
以上より, はで稠密となり,が言えた.
斉一列の構成
最後に補題1を満たすをTodorčevićによるwalkの手法を用いて構成する.
以下を満たすを-列と呼ぶ:
,
: cofinal in , .
-列は明らかに存在するので,以下一つ固定する.
に対し,からへのstepとはの事.
からへのwalkとは次で定まるの事: walkは順序数の真の減少列なので有限長で止まる. 定義よりであり,-列の取り方よりならは必ず定まるので,特に最終的にと一致する.
により関数を定める.をからへのwalkの最大重み(maximal weight)と呼ぶ.
定義だけだとわかりづらいと思うので,を固定しよう. 記号が重いので,と略記することにすれば,以下のように図示出来る:
からに向けてを梯子に使って降りていくようなイメージである. 特に,各は-型に取ってあるので,途中ので切ったら必ず有限で切れるようになっている. はこの未満の有限の端数の所に注目して,一番長い所の長さを持ってきた物である. そして,このが補題1の列を作る本質的な素になっている.
は有限対一写像:任意のに対し,
は斉一的(coherent):任意のに対し.
Proof.
任意のとに対しを満たすの存在を示せば良い. 特に,を満たすが取れるのなら自明なので,としよう.
について帰納法で示す.
と置く. ならば,十分大きなでを満たすものがある.
そこでの場合を考える. の正則性から,特にが任意のに対して成立しているとして良く,この時はに依らず常に一定の値を取り,特にが成り立つ. この時,各に対し, そこで帰納法の仮定をとに適用すれば,でを満たすものが取れる.すると,
よっては有限対一.
についての帰納法で示す.
とを任意に取って,でを満たすものを取れれば良い. 適切にを縮めれば,としても一般性を失わない. , , とおく. 上の結果からは有限対一なので, とおけば. をとれば,よりおよび. 以上を踏まえれば, ここで,ならとなるので適当にを取ればそれが求めるものである. もしであれば,に帰納法の仮定が使え,でを満たすものが取れ,上の議論と合わせてとなる.
折角なのでの無矛盾性の概要を
こうしてSuslin予想を打ち砕く方向の構成は出来ました. では逆にを成り立たせる,つまり「Suslin木がない」状況を実現するにはどうすればいいでしょうか? まず,Suslin木のうち性質の良い木だけ考えればよい,ということを見ましょう:
-木がwell-pruned どんなに対してもとなるが-個存在.
-Suslin木が存在するなら,well-prunedな-Suslin木も存在.
Proof. そういう頂点だけ集めてくればいいだけ.
例えば,一つSuslin木が与えられた時に,それを壊すだけなら簡単です:
をwell-prunedな-木とする.この時,によりを擬順序と見做す. この時,を上の-ジェネリックフィルターとすると,はの濃度の鎖.
特に,がAronszajn木(Suslin)ならにおいてはAronszajn(Suslin)ではない.
Proof. は-木で,しかもwell-prunedなので,各に対し,はで稠密. よって,は任意のに対して. また,の任意の二元は両立し,なのでは鎖. よっては濃度のの鎖.
よって一つ具体的にが与えられていれば,で強制する事によってのSuslin性を壊すことが出来ます.
なので,Suslin木を全部一列に並べておいて順に強制してやれば……という発想に至るのは自然な事です. しかし,問題となるのは,Suslin木で強制した事によって別のSuslin木が付加されている可能性がある,ということです. そういった状況下で,「途中で増えるかもしれない物の帳尻を最終的に合わせる」手法をbookkeeping論法といい,集合論では常套手段になっています. まず,Suslin木は強制法としてc.c.c.持ち,特に任意の基数を保つことに注意しましょう.
これを踏まえて,全てのSuslin木を殺す強制法を考えましょう. そのためには,「いちど強制拡大した後に追加される強制法で頑張る」という方法が必要になります. これを定式化したものが反復強制法です:
を擬順序とする.
が擬順序の-名称 .
を擬順序の-名称とする. このとき,との二段階反復を次で定める:
直ちに次が言えます:
を擬順序,を擬順序の-名称とする. 次は同値:
がc.c.c.で
がc.c.c.
Proof. をc.c.c.,とする.が反鎖であるとして矛盾を導こう(背理法). においてとおく. ここで相異なるを取ると,かつが反鎖であることから,においてはとなっている. すると,なので,でなくてはならない. に対応する-名称をとすれば,である.
そこでに戻り,をの上界を決定するようなの反鎖の中で極大なものとする. 即ち,各はとなるようなが存在するようなからなる反鎖の中で極大の物である. のc.c.c.性からなので,とおけばである. すると定め方から. しかし,となるのでこれは矛盾.
逆向きは完備埋め込みを考えれば自明.
これによって,「これを壊して,次にこれを壊して……」というのを有限回繰り返すのは出来,各段階で使う擬順序がc.c.c.なら基数を保つようにもできます. しかし,Suslin木は無限個あるので,繰り返しは超限回になる必要性があります. 後続段階では単に二段階の反復をすれば良いので,極限回目の反復をどうするかが問題になります. この部分で幾つか亜種がありますが,我々はその中で最も単純な有限台反復を用います:
が次の条件を満たすとき,の有限台反復強制法であると呼ぶ:
,
各元は長さの列で,任意のに対し,
なら, ,
が極限ならの台は有限. .
ならの有限台反復もc.c.c.
Proof. 極限ステップでがんばればわかる.
以上を踏まえてSuslin木を全部ブッ壊してみましょう. 面倒臭いので,以下を仮定して,宇宙に-木が幾つあるかを数えましょう. まず,-木は「高さで各段階が高々可算」という木でしたから, 濃度は高々という事になります. なので,台集合はだと思ってしまって,その上にと同型になるような順序が入っているとして良いでしょう. 上の二項関係全体の濃度は高々ですから,を使えば,結局宇宙には高々-個のSuslin木があることがわかります.
なので,帳尻を合わせるには-回の反復をすれば良さそうです. 反復強制法をやるに当たっては,単にSuslin木の全数だでけでなく,Suslin木になり得る-名称全てをリストする必要がありますが,それを見積もるには以前使った次の補題が使えるでしょう:
が-c.c.を満たしとする. 基数に対してとすると.
今回の場合,各後続段階で反復する擬順序の濃度は高々で,反復の回数は-回なので,です. 各はc.c.c.を持ち,欲しいのはの部分集合の上限ですから,, とおけば,となります. よって,結局各段階の強制拡大の途中で考慮する必要のあるSuslin木の個数の上限はとなります.
Proof. いよいよBookkeepingをしていきます. 「-回目の宇宙にある-番目のSuslin木」を二次元的に格子状に並べて,それを端っこから縫うように見ていくことで最終的に帳尻を合わせる論法です.
そこで,まず全単射で,ならとなるようなものを固定します. の時にによって追加される-番目のSuslin木で強制してやるようにします.
具体的には以下のようにします. に関する帰納法で,とを構成していきます:
が決まった時, は-木の-名称の(重複を許した)列挙とする.
の時,がwell-prunedなSuslin木なら,そうでないならとする.
ここで,のとき,は-名称であって-名称ではありませんが,仮定よりではに完備に埋め込めるので,ちゃんと名称を書き換えてやることが出来る訳です.
このようにして,をたちの-段階有限台反復とします. にはSuslin木がない,ということを見ましょう. まず,は前の補題よりc.c.c.なので全ての基数を保ち,特になどはとで絶対である事に注意しましょう. 特に,この事から「-木であること」や「-木がAronszajnであること」がとで絶対的になります.
構成法から,途中ので追加されるSuslin木については全て壊せていそうです. ただ,最終的にの段階で何か木が追加されているのではないか?という不安が残ります. そこで,を-強制拡大として,を台集合をとするwell-prunedな-木とし,を対応する-名称とします. この時,各に対し,をの中で極大な反鎖とします. すると,と書けているとして良いでしょう. この時,上の補題からはc.c.c.ですので,各は高々可算です. の組合せは全部で-通りあるので,に現れるの元は高々-個としてよいです. また,は有限台反復なので,とおけば,であり,は-名称と見做すことが出来,何らかのがあってとなります. よって,途中の段階でに対する共終路が付加されていますから,はSuslinではありません.
「木」の定義について
一番一般的な「木」の定義は次の通りです:
半順序集合が木任意のに対しは整列集合.
鎖や反鎖の概念も適切に定義出来,同様に-木や-Aronszajn, -Suslin木の概念も定義出来ます.
必ずしも全ての木がここで定義したようなの部分木の形で表せるとは限りません. しかし,次の性質を満たす木は全て我々の使った方法で表現出来ます:
木がHausdorff 任意のに対し,ならが成立.
木が根つき木 .
任意のHausdorffな根つき木は適当なとについての部分木として表現出来る.
Proof. とおく. この時となるようなの部分木を定義したい. 以下,の帰納法により各に対しを定める.
まずに対してはとすればが根つき木であることから良い. までの行き先が定まったとして,の各元の行き先を定めよう. 任意のに対して,仮定より適当ながあっての形に整列出来るので,各に対してと定める. の任意の元は必ずに直前の元を持つので,これによりからの中への順序単射が定まっている.
最後にが極限の場合を考える. この時を取れば,任意のに対しが成り立つのでをの唯一の元とする. この時,によりを定める. が整列集合であることとがからの中への順序単射となっていることから,となる. また,に対してが成り立てば,となるので,Hausdorff性からが得られる. よってにおけるの対応もwell-definedである.
そこでとおけば,定め方から明らかにはの部分木であり.
任意の木が根つきのHausdorff木とは限らないが,Suslin木やAronszajn木が与えられたとき,れらを根付きのHausdorff木にするのは容易い. それらをwell-prunedにした後に,ランク最小の元から生えてるのを一つ選んできて,極限ステップで同じ道を持つ元がいれば,その下にワンステップ追加してやればいいだけである.