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本稿は,2013年度の確率論の講義のレポートとして提出したものを加筆修正したものだが,内容は特に確率論とは関係ない.

Measure Problem

確率論は,全空間が測度 11 を持ち,σ\sigma-加法的であるような測度空間を研究する分野であると云える.そのような確率測度の基本的な例の一つに,単位区間 [0,1][0, 1] 上の Lebesgue 測度がある.

Lebesgue は当初,R\mathbb{R} の部分集合は全て Lebesgue 可測であろうと考えていた.より厳密に,Lebesgue 測度は平行移動不変性を保ったまま,P(R)\mathop{\mathcal{P}}(\mathbb{R}) 上に拡張出来るだろうと考えていた.しかし,選択公理を仮定すると Lebesgue 可測でない実数の集合が存在することが,Vitali により示された.

では,平行移動不変性の条件を緩めることで [0,1][0, 1] の任意の部分集合が可測となるような Lebesgue 測度の拡張を定義出来ないだろうか?この問題を一般化した物が Banach の Measure Problem である:

次を満たすような P(S)\mathop{\mathcal{P}}(S) 上の確率測度 μ\mu が定義出来るような無限集合 SS は存在するか?

  1. μ()=0,μ(S)=1\mu(\emptyset) = 0, \mu(S) = 1

  2. XYμ(X)μ(Y)X \subseteq Y \Rightarrow \mu(X) \leq \mu(Y)

  3. 非自明性(xS)μ({x})=0(\forall x \in S)\, \mu(\{x\}) = 0

  4. σ\sigma-加法性Xn(n<ω)X_n \, (n < \omega) が互いに交わらないなら, μ(n<ωXn)=n<ωμ(Xn).\mu\left(\bigcup_{n < \omega} X_n\right) = \sum_{n < \omega} \mu(X_n).

以下で測度と云った場合,上の条件のうちで非自明性以外は全て満たしているものとする.また,集合 SS について P(S)\mathop{\mathcal{P}}(S) 上で定義された測度の事を単に SS 上の測度と呼ぶ.

このレポートでは,上の Measure Problem から派生した集合論の問題について簡単に紹介を行う.

集合論に関する予備知識

以下,順序数はギリシア文字 α,β,γ,\alpha, \beta, \gamma, \dots などで表す.また,集合の濃度を表す基数は κ,λ\kappa, \lambda などで表し,κ\kappa の後続基数を κ+\kappa^+ と書くことにする.α\alpha 番目の無限基数を α=ωα\aleph_\alpha = \omega_\alpha と書く.任意の無限基数について κ+=2κ\kappa^+ = 2^\kappa が成立するという主張を一般連続体仮説(GCH)と呼ぶ.特に,κ=0\kappa = \aleph_0 の時を連続体仮説(CH)と呼ぶ.GCH や CH は集合論の公理系から独立であることが知られている.

基数 κ\kappa がそれより濃度の小さな集合の κ\kappa 未満の和で書けないとき,すなわち κ={Aα  |  α<γ}\kappa = \bigcup \left\{\: A_\alpha \;\middle|\; \alpha < \gamma \:\right\}ならば γκ\gamma \geq \kappa であるかある α<γ\alpha < \gamma について Aα=κ|A_\alpha| = \kappa となる時,κ\kappa正則であるという.正則でない基数を特異基数と云う.ω\omega や後続基数は正則基数である.またω={α  |  α<ω}\aleph_\omega = \bigcup \left\{\: \aleph_\alpha \;\middle|\; \alpha < \omega \:\right\} より ω\aleph_\omega は正則基数でない.f:αβf: \alpha \rightarrow \beta が共終写像であるとは,ff の像が β\beta で共終となること,つまり (γ<β)(ξ<α)γf(ξ)(\forall \gamma < \beta)(\exists \xi < \alpha)\, \gamma \leq f(\xi) となることである.β\beta への共終写像 h:αβh: \alpha \rightarrow \beta が存在するような最小の順序数 α\alpha のことを β\beta の共終数とよび,cf(β)\mathrm{cf}(\beta) で表す.明らかに cf(κ)κ\mathrm{cf}(\kappa) \leq \kappa である.この時,κ\kappa が正則であることと,cf(κ)=κ\mathrm{cf}(\kappa) = \kappa であることは同値である.cf(κ)\mathrm{cf}(\kappa) から κ\kappa への共終写像は,常に狭義単調増加となるように取ることが出来る.

κ>ω\kappa > \omega弱到達不能基数であるとは,正則な極限基数であることである. cf(α)=cf(α)\mathrm{cf}(\aleph_\alpha) = \mathrm{cf}(\alpha) であるので,κ\kappa が弱到達不能基数ならば κ=κ\aleph_\kappa = \kappa となるから,これはとても大きな基数である.更に,κ>ω\kappa > \omega到達不能基数であるとは,正則であり α<κ(2α<κ)\forall \alpha < \kappa\, (2^\alpha < \kappa) が成立することである.到達不能基数ならば弱到達不能基数である.(弱)到達不能基数が存在すれば,それを用いて ZFC のモデルを構成出来る.よって,もし ZFC から到達不能基数の存在が証明出来れば,ZFC の公理系を用いて自身の無矛盾性が証明出来ることになる.しかし,Gödel の不完全性定理によりそのような事はあり得ないので,ZFC の公理系から到達不能基数の存在は証明出来ない.

到達不能基数と可測基数

Measure Problem の強さを表す結果が次である:

もし集合 SS 上の非自明な測度が存在するなら,次のいずれかが成立する:

  1. SS 上の二値測度が存在し,S|S| は最小の到達不能基数以上となる.

  2. 202^{\aleph_0} 上のアトムを持たない測度が存在し,202^{\aleph_0} は最小の弱到達不能基数以上となる.

到達不能基数の存在は ZFC からは示せないので,Measure Problem も ZFC から証明する事は出来ない. ここで,幾つか補助的な定義をしておく.

  • AA が測度 μ\muアトムdefμ(A)>0XA(μ(X)=μ(A) or 0)\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \mu(A) > 0 \wedge \forall X \subseteq A (\mu(X) = \mu(A) \text{ or } 0)

  • μ\mu二値測度 XS,μ(X){0,1}\Leftrightarrow \forall X \subseteq S, \mu(X) \in \{0, 1\}

  • I0,riR(iI)|I| \geq \aleph_0, r_i \in \mathbb{R} \,(i\in I) のとき iIri=sup{iEri  |  EIE<0}\sum_{i \in I} r_i = \sup \left\{\: \sum_{i \in E} r_i \;\middle|\; E \subseteq I \wedge |E| < \aleph_0 \:\right\}

  • 測度 μ\muκ\kappa-加法的 def\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} 任意の γ<κ\gamma < \kappa に対し, Aα(α<γ)A_\alpha \, (\alpha < \gamma) が互いに交わらないなら, μ(α<γAα)=α<γμ(Aα)\mu\left(\bigcup_{\alpha < \gamma} A_\alpha\right) = \sum_{\alpha < \gamma} \mu(A_\alpha)

上の命題の証明は,μ\mu がアトムを持つ場合と持たない場合とに分けて行われる.

二値測度とアトム

まずはアトムを持つ場合について考える.まずはアトムと密接に関わる二値測度について考察する.

μ\mu が二値測度の時, U={XS  |  μ(X)=1}U = \left\{\: X \subseteq S \;\middle|\; \mu(X) = 1 \:\right\} はウルトラフィルターとなる.今,μ\muκ\kappa-加法的ならば,SSκ\kappa 個未満の零集合の和で書けないので,この時 UUκ\kappa-完備となる事(κ\kappa未満の交わりで閉じている事)がわかる.よって,μ\mu が二値測度ならば,測度 11 の集合全体は σ\sigma-完備なウルトラフィルターとなる.また,更に μ\mu が非自明なら UU は単項フィルターではない(一点集合を元に持たない).

逆に UUSS 上の σ\sigma-完備ウルトラフィルターとすると,次の μ\muSS 上の二値測度となる: μ(X)={1XU0XU\mu(X) = \begin{cases} 1 & X \in U\\ 0 & X \notin U \end{cases} つまり,二値測度と σ\sigma-完備ウルトラフィルターは本質的に同じものなのである.

そこで,非自明な二値測度を持つ最小の基数 κ\kappa について考える.上の議論から,κ\kappa は非単項 σ\sigma-完備ウルトラフィルターを持ち,更に μ\mu が非自明で σ\sigma-加法的なので κ\kappa は非可算となる.このウルトラフィルターの完備性は更に強めることが出来る:

κ\kappa を非単項な σ\sigma-完備ウルトラフィルターを持つ最小の基数とする.すると,そのウルトラフィルター UUκ\kappa-完備となる.

Proof. もし UUκ\kappa-完備でないとすると,κ\kappaγ<κ\gamma < \kappa 個の零集合 Xα(α<γ)X_\alpha\,(\alpha < \gamma)に分割出来る.f(x)=αxXαf(x) = \alpha \Leftrightarrow x \in X_\alpha により全射 f:κγf: \kappa \to \gamma を定義し,D={Zγ  |  f1[Z]U}D = \left\{\: Z \subseteq \gamma \;\middle|\; f^{-1}[Z] \in U \:\right\} とすれば,UU の完備性から DDσ\sigma-完備ウルトラフィルターとなる.また, {α}D\{\alpha\} \in D とすると,Xα=f1[{α}]UX_\alpha = f^{-1}[\{\alpha\}] \in U となり矛盾.従って DD は非単項である.

よって,UUκ\kappa-完備でないとすると,非単項なσ\sigma-完備ウルトラフィルターを持つ基数で κ\kappa 未満のものが存在する.これは κ\kappa の最小性に反する.

以上を踏まえて,次のように可測基数を定義する.

κ>ω\kappa > \omega可測基数 defκ\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \kappa 上の非単項な κ\kappa-完備ウルトラフィルターが存在する.

非自明な二値測度を持つ最小の基数は可測基数となる事がわかる.また,κ\kappa-完備性と非単項性から,ウルトラフィルターの各元の濃度は κ\kappa でなくてはならない.同様に,κ\kappaκ\kappa 個未満の小さな集合の和で書けるとすると,これも非単項性に反するので,κ\kappa は正則基数である.更に,次の命題が成立する.

可測基数は到達不能基数である.

Proof. κ\kappa:可測として,もし 2λκ2^\lambda \geq \kappa となるような λ<κ\lambda < \kappa が存在すると矛盾する事を示す.仮定より S=κ|S| = \kappa となる Sλ2S \subseteq {}^\lambda 2 が取れる.そこで,UUSS 上の非単項κ\kappa-完備ウルトラフィルターとすると各 α<λ\alpha < \lambda について {fS  |  f(α)=0}\left\{\: f \in S \;\middle|\; f(\alpha) = 0 \:\right\}{fS  |  f(α)=1}\left\{\: f \in S \;\middle|\; f(\alpha) = 1 \:\right\} のどちらか一方は UU に属すので,それを XαX_\alpha とする.今,UUκ\kappa-完備なので X={Xα  |  α<λ}UX = \bigcap \left\{\: X_\alpha \;\middle|\; \alpha < \lambda \:\right\} \in U となる.しかし,XX は高々一つしか元を持たず,非単項性に矛盾する.

最後にアトムと二値測度の関係を述べる.集合 SS 上の非自明な測度 μ\mu が存在したとする.もし μ\mu がアトム AA を持つならば, ν(X)=μ(XA)/μ(A)\nu(X) = \mu(X \cap A)/\mu(A) により SS 上の非自明な二値測度 ν\nu が定義される.よって定理 11μ\mu がアトムを持つ場合,SS は非自明な二値測度 ν\nu を持ち,対応する σ\sigma-完備非単項ウルトラフィルター UU が得られる.補題 11 より,こうしたウルトラフィルターを持つ最小の基数 κ\kappa は可測基数であり,特に到達不能である.κS\kappa \leq |S| であるので,定理の (i) が成立する.

実数値可測基数

そこで,今度はアトムを持たないような実数値の測度 μ\mu について考えよう.

二値測度の場合は,測度 11 の集合の成すウルトラフィルターが重要な役割を果していた.実数値測度の場合にその役割をするのが,零集合全体の成すイデアル IμI_\mu である: Iμ:={XS  |  μ(X)=0}I_\mu \mathrel{:=} \left\{\: X \subseteq S \;\middle|\; \mu(X) = 0 \:\right\} IμI_\mu は非単項な σ\sigma-完備イデアルとなり,更に次の性質を持つ:

  1. xSx \in S に対し {x}Iμ\{x\} \in I_\mu

  2. IμI_\mu に属さない互いに交わらない集合 XSX \subseteq S から成る族は高々可算である.

上のような性質を持つイデアルのことを,σ\sigma-飽和イデアルと呼ぶ.(i) は非自明性より明らか.(ii) については,n>0n > 0 に対し測度が 1n\frac{1}{n} 以上となるような集合は高々 nn 個しか存在しないことからわかる.

このイデアル IμI_\mu についても,二値測度の際の UU のような性質が成立する.

  1. κ\kappa を非自明な測度を持つ最小の基数とする.この時,零集合の成すイデアル IμI_\muκ\kappa-完備となる.

  2. κ\kappaσ\sigma-完備 σ\sigma-飽和イデアルを持つ最小の基数とする.そのイデアルを II とすると,IIκ\kappa-完備である.

証明の概略. IμI_\muκ\kappa-完備でないとすると,SS の互いに交わらない零集合の族 {Xα  |  α<γ}(γ<κ)\left\{\: X_\alpha \;\middle|\; \alpha < \gamma \:\right\}\,(\gamma < \kappa) で,X={Xα  |  α<γ}X = \bigcup \left\{\: X_\alpha \;\middle|\; \alpha < \gamma \:\right\} が正の測度を持つような物が存在する.そこで, f(x)=αxXαf(x) = \alpha \Leftrightarrow x \in X_\alpha により XX から γ\gamma への全射 ff を定める.この時 ν(Z)=μ(f1[Z])/μ(X)\nu(Z) = \mu(f^{-1}[Z])/\mu(X) により γ\gamma 上の測度 ν\nu を定義すれば,これは σ\sigma-完備で非自明である.γ<κ\gamma < \kappa であるので,これは κ\kappa の最小性に反する.

ウルトラフィルターの場合と同様,μ\muκ\kappa-加法的なら,IμI_\muκ\kappa-完備になる.逆も同様である:

Iμ:SI_\mu:S 上の測度 μ\mu の零集合イデアル

IμI_\muκ\kappa-完備 μ\Rightarrow \muκ\kappa-加法的.

証明の概略. IμI_\muσ\sigma-飽和なので,γ<κ\gamma < \kappa のとき XαS(α<γ)X_\alpha \subseteq S \, (\alpha < \gamma) が互いに交わらないなら,その中で正の測度を持つものは高々可算個しかない.そこで XαX_\alpha を正の測度を持つものと零集合に分ければ,μ(α<γXα)=α<γμ(Xα)\mu(\bigcup_{\alpha < \gamma} X_\alpha) = \sum_{\alpha < \gamma} \mu(X_\alpha)は直ちに従う.

κ\kappa を非自明な測度 μ\mu を持つ最小の基数とする.このとき,μ\muκ\kappa-加法的である.

κ>ω\kappa > \omega実数値可測基数 defκ\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \kappa 上の非自明な κ\kappa-加法的測度が存在.

定義より可測基数は実数値可測基数である.また,非自明な測度を持つ最小の基数は実数値可測である.非自明性とκ\kappa-加法性より濃度 κ\kappa 未満の集合は零集合となるので,κ\kappa は正則である.更に,実は κ\kappa は弱到達不能となっている.

これを示す前に,可測基数でない実数値可測基数が存在すれば,それは 2ω2^\omega 以下であることを示そう.

アトムを持たない非自明な測度が存在するなら,ある κ2ω\kappa \leq 2^\omega 上の非自明な測度でアトムを持たない物が存在する.

証明の概略. S={Zα  |  α<κ}(κ<2ω)S = \coprod \left\{\: Z_\alpha \;\middle|\; \alpha < \kappa \:\right\} \, (\kappa < 2^\omega) かつ μ(Zα)=0\mu(Z_\alpha) = 0 となる分割を取り,全射 f(x)=αxZα(α<κ)f(x) = \alpha \Leftrightarrow x \in Z_\alpha \, (\alpha < \kappa) を定める. ν(Z)=μ(f1[Z])\nu(Z) = \mu(f^{-1}[Z]) により κ\kappa 上に非自明な測度が定まる.また,ν\nu がアトム AA を持つとすると,κ\kappa 上の非単項 σ\sigma-完備ウルトラフィルターが存在する.そのようなウルトラフィルターが存在する最小の基数 を λ\lambda とすると, λ2ω\lambda \leq 2^\omega である.補題 22 より λ\lambda は到達不能基数となるが,到達不能基数は 2ω2^\omega 以下ではありえず,矛盾.

このような分割を得るには,SS から始めて次々と二つの測度正の集合に分割していく木を作ればよい.そのような木の高さは高々 ω1\omega_1 であり,分岐の本数は高々 2ω2^\omega となる事がわかる.各分岐ごとにその共通部分を取った物が,上で求める ZαZ_\alpha となる

上の証明より,μ\mu がアトムを持たないならば,SS202^{\aleph_0} 個の零集合に分割出来る.よって,μ\mu(20)+(2^{\aleph_0})^+-加法的ではない.よって,次の系を得る:

κ\kappa が実数値可測ならば,κ\kappa は可測基数であるか κ20\kappa \leq 2^{\aleph_0} のどちらか一方が成立する.

次から実数値可測基数の弱到達不能性が従う.

κ=λ+\kappa = \lambda^+ ならば,κ\kappa 上の κ\kappa-完備 σ\sigma-飽和イデアルは存在しない.

この補題の証明の為に,Ulam 行列という物を定義する.

無限基数 κ\kappa について,次を満たす Aα,βκ+  |  α<κ+,β<κ\left\langle\: A_{\alpha, \beta} \subseteq \kappa^+ \; \middle|\; \alpha < \kappa^+, \beta < \kappa \:\right\rangleκ\kappa-Ulam 行列 と呼ぶ:

  1. 任意の γ<κ\gamma < \kappa について,αβAα,γAβ,γ=\alpha \neq \beta \Rightarrow A_{\alpha,\gamma} \cap A_{\beta, \gamma} = \emptyset

  2. 任意の α<κ+\alpha < \kappa^+ に対し,κ+{Aα,β  |  β<κ}<κ+\left|\kappa^+ \setminus \bigcup\left\{\: A_{\alpha, \beta} \;\middle|\; \beta < \kappa \:\right\}\right| < \kappa^+

即ち,Ulam 行列とは,κ+\kappa^+ の部分集合を成分にもつ κ+\kappa^+-行 κ\kappa-列の行列であり,

  1. 各列の成分が互いに交わらず,

  2. 行ごとに和を取れば,高々 κ\kappa 個を除いて κ+\kappa^+ の元を全て含んでいる

ようなもののことである.任意の基数 κ\kappa に対し,κ\kappa-Ulam 行列は常に存在する事が証明出来る:

Ulam 行列は存在する.

Proof.ξ<κ+\xi < \kappa^+ に対し,κ\kappa 上の函数 fξf_\xi を,ξRng(fξ)\xi \subseteq \mathrm{Rng}(f_\xi) となっているように取る(ξ<κ+\xi < \kappa^+ なら ξκ\xi \leq \kappa なので,このような函数は常に取れる).α<κ+,β<κ\alpha < \kappa^+, \beta < \kappa に対し,Aα,βA_{\alpha, \beta} を, Aα,β={ξ<κ+  |  fξ(β)=α}A_{\alpha, \beta} = \left\{\: \xi < \kappa^+ \;\middle|\; f_\xi(\beta) = \alpha \:\right\} により定める.各 β<κ,ξ<κ+\beta < \kappa, \xi < \kappa^+ に対し,fξf_\xi が函数であることから,ξAα,β\xi \in A_{\alpha, \beta} となるような α\alpha は唯一つだけ存在する.よって条件の (i) は成立することがわかる.

ξRng(fξ)\xi \subseteq \mathrm{Rng}(f_\xi) より,任意の α<κ+,ξ>α\alpha < \kappa^+, \xi > \alpha に対し,fξ(β)=αf_\xi(\beta) = \alpha となるような β<κ\beta < \kappa が少なくとも一つ存在するので,ξ>α\xi > \alpha ならば ξAα,β\xi \in A_{\alpha, \beta} となる.よって, κ+α{Aα,β  |  β<κ}κ+{Aα,β  |  β<κ}κ+α=α<κ+\begin{gathered} \kappa^+ \setminus \alpha \subseteq \bigcup\left\{\: A_{\alpha, \beta} \;\middle|\; \beta < \kappa \:\right\}\\ \therefore \kappa^+ \setminus \left\{\: A_{\alpha, \beta} \;\middle|\; \beta < \kappa \:\right\} \subseteq \kappa^+ \cap \alpha = \alpha < \kappa^+ \end{gathered} よって,(ii) も成立する.

以上を踏まえて,補題 66 が証明出来る.

補題 6 の証明. κ\kappa-完備なσ\sigma-飽和イデアル II が存在したとする.Ulam 行列の条件 (ii) より,κβ<λAα,β<κ|\kappa \setminus \bigcup_{\beta < \lambda} A_{\alpha, \beta}| < \kappa なので,IIσ\sigma-飽和性の (i) および κ\kappa-完備性より κβ<λAα,βI\kappa \setminus \bigcup_{\beta < \lambda} A_{\alpha, \beta} \in I となる.よって,各 α<λ+\alpha < \lambda^+ に対し Aα,βIA_{\alpha, \beta} \notin I となるようなβα\beta_\alpha が存在する.κ=λ+\kappa = \lambda^+ の正則性より λ+\lambda^+ の濃度 λ+\lambda^+ の部分集合で,対応する βα\beta_\alpha がみな同じに取れるような物が取れる.これらは皆 II に属さず互いに交わらない集合となるが,IIσ\sigma-飽和であったので高々可算個でなくてはならず矛盾.

κ\kappa が実数値可測基数ならκ\kappa-完備σ\sigma-飽和イデアルを持つので,κ\kappa は後続基数ではない.よって実数値可測基数は極限基数であり,正則基数であることは既に示していたので,次の系を得る.

実数値可測基数は弱到達不能である.

よって,定理 11μ\mu がアトムを持たないなら,補題 55 より κ2ω\kappa \leq 2^\omega でアトムを持たない非自明な測度を持つものが取れる.よって,最小の実数値可測基数は κ\kappa 以下であるので,(ii) が成立する.

Lebesgue 測度の拡張と連続体仮説

今までの議論と Lebesgue 測度の関係を述べたのが次の定理である:

アトムを持たない非自明な測度が存在するなら,Lebesgue 測度の拡張となるような [0,1][0, 1] 上の測度が存在する.

Proof. 補題 55 より κ2ω\kappa \leq 2^\omega 上のアトムを持たない非自明な測度 μ\muが存在し,特にその最小の物を取れば,補題 11 より μ\muκ\kappa-加法的であるとしてよい.

アトムなしなので 0,10, 1 の有限列 s<ω2s \in {}^{<\omega} {2} に対し, X=κXs=Xs0Xs1μ(Xs0)=μ(Xs1)=12μ(Xs)\begin{gathered} X_\emptyset = \kappa \qquad X_s = X_{s \mathbin{{}^\frown} 0} \sqcup X_{s \mathbin{{}^\frown} 1} \\ \mu(X_{s \mathbin{{}^\frown} 0}) = \mu(X_{s \mathbin{{}^\frown} 1}) = \frac{1}{2} \mu(X_s) \end{gathered} となるように XsX_s を定められる(但し sts \mathbin{{}^\frown} tsstt の連接).これにより fω2f \in {}^{\omega} {2} に対し Xf={Xfn  |  n<ω}X_f = \bigcap \left\{\: X_{f \upharpoonright n} \;\middle|\; n < \omega \:\right\} と定義する.そこで, ν1(Z)=μ({Xf  |  fZ})\nu_1(Z) = \mu\left( \bigcup\left\{\: X_f \;\middle|\; f \in Z \:\right\}\right) により2ω2^\omega 上の測度を定める.すると,μ\muσ\sigma-加法性から ν1({f})=μ(nXfn)=0\nu_1(\{f\}) = \mu(\cap_n X_{f\upharpoonright n}) = 0となるので,ν1\nu_1 は非自明でアトムを持たない測度となる.

そこで, F(f)=n=0f(n)/2n+1F(f) = \sum_{n = 0}^{\infty} {f(n)}/{2^{n+1}} により定まる全射 F:ω2[0,1]F: {}^{\omega} {2} \rightarrow [0, 1] を考える.これにより,[0,1][0, 1] 上にν(X)=ν1(F1[X])\nu(X) = \nu_1(F^{-1}[X]) により測度を入れる.これも ν1\nu_1 の性質から非自明でアトムを持たない.後は,Lebesgue 可測集合上でこの ν\nu が Lebesgue 測度 mLm_L と一致することを示せば良い.

まず,Lebesgue 測度に関する Borel 集合族は [0,1][0, 1]An=[2n,+12n]A^\ell_n = [\frac{\ell}{2^n}, \frac{\ell+1}{2^n}] の形の区間全体から生成されるので,ν\numLm_L の値がこの上で一致すればそれぞれの測度の σ\sigma-加法性より両者は任意の Borel 集合上で一致することになる.

今,定義より,Xf={Xsf  |  fω2}X_f = \bigcup \left\{\: X_{s \mathbin{{}^\frown} f} \;\middle|\; f \in {}^{\omega} {2} \:\right\} である.n<ω,02nn < \omega, 0 \leq \ell \leq 2^n を固定する.\ellnn 桁の二進表現を持つのでそれを ss とすると, fn=s(0,0,),fn+1=s(1,1,)f^\ell_n = s \mathbin{{}^\frown} (0, 0, \dots), \quad f^{\ell+1}_n = s \mathbin{{}^\frown} (1, 1, \dots)F(fn)=2n,F(fn+1)=+12nF(f^\ell_n) = \frac{\ell}{2^n}, F(f^{\ell+1}_n) = \frac{\ell + 1}{2^n} を満たす.すると,F1[An]{Xsf  |  fω2}=XsF^{-1}[A^\ell_n] \supseteq \bigcup \left\{\: X_{s\mathbin{{}^\frown} f} \;\middle|\; f \in {}^{\omega} {2} \:\right\} = X_s である.二進展開は高々二通りあるが,その違いが現れるのは端点のみで有限の差として無視出来る.よって, ν(An)=ν1(Xs)=12n=mL(An).\nu(A^\ell_n) = \nu_1(X_s) = \frac{1}{2^n} = m_L(A^\ell_n) .

以上より,ν\numLm_L のボレル集合族 B[[0,1]]\mathcal{B}[[0,1]] 上での値は一致する. また,NNmLm_L-零集合とすると,mL(M)=0m_L(M) = 0 となるような NMB[[0,1]]N \subseteq M \in \mathcal{B}[[0,1]] が存在する.よって,mL(N)=mL(M)=ν(M)=0m_L(N) = m_L(M) = \nu(M) = 0 となるので,mLm_L-零集合は ν\nu-零集合である.

任意の Lebesgue 可測集合 XXX=EN,EB[[0,1]],mL(N)=0X = E \cup N, E \in \mathcal{B}[[0,1]], m_L(N) = 0 の形に分解出来るのであった.特に,M=ENM = E \cap N とおけば,X=(EM)NX = (E \setminus M) \cup N の形に書ける.ν\numLm_L は Borel 集合上や零集合上で一致するので,任意の Lebesgue 可測集合上で ν\numLm_L の値は一致する.よって ν\nu は Lebesgue 測度の[0,1][0,1] 上への拡張となる.

Lebesgue 測度の拡張の存在は,非可測な実数値可測基数の存在と同値である.非可測な実数値可測基数 κ\kappa が存在すれば,系 22 より κ20\kappa \leq 2^{\aleph_0} となり,上の証明から Lebesgue 測度の [0,1][0, 1] 上への拡張が存在することになる.逆に,[0,1][0,1] 上の Lebesgue 測度の拡張があれば,それは 2ω2^\omega 上のアトムを持たない非自明な測度となっている.よって,そのような測度を持つ最小の基数 κ\kappa2ω2^\omega 以下であり,補題 33 よりその測度は κ\kappa-完備となるので,κ\kappa は実数値可測である.特に,κ2ω\kappa \leq 2^\omega であるので,κ\kappa は可測基数ではない.この事から,Lebesgue 測度の [0,1][0, 1] 上への拡張の存在は,ZFC から証明出来ないことがわかる.

ところで,Banach と Kuratowski は連続体仮説を仮定すると,[0,1][0, 1] 上への拡張は取れない事を示している. 冒頭でも述べたように連続体仮説は ZFC から独立であり,[0,1][0,1]上の Lebesgue 測度の存在も ZFC から存在を証明することは出来ない命題なので,これは矛盾ではない.ZFC に新たな公理として付け加えようと思ったときに,実数値可測基数の存在と連続体仮説を同時に仮定する事は出来ないと云う事である.

Banach-Kuratowski の結果を,より一般化して証明しよう.まず,ω\omega から ω\omega への函数全体 ωω{}^{\omega} {\omega} に,次のようにして順序を定める: f<gdef(n<ω)(mn)f(m)<g(m)f <^* g \xLeftrightarrow{\mathrm{def}} (\exists n < \omega)(\forall m \geq n)\, f(m) < g(m) つまり,有限個を除いて gg の取る値が ff より常に大きいときに f<gf <^* g と定めるのである.この順序は全順序ではなく,また反対称律(fggff=gf \leq^* g \wedge g \leq^* f \longrightarrow f = g)も満たさないので,擬順序であることに注意しよう. この順序を使って,κ\kappa-scale の概念を定義する.

ωω{}^{\omega} {\omega} の列 fα  |  α<κ\left\langle\: f_\alpha \; \middle|\; \alpha < \kappa \:\right\rangle は,次の二つの条件を満たすとき κ\kappa-scale であると云う:

  • 狭義増加列である:α<βfα<fβ\alpha < \beta \Rightarrow f_\alpha <^* f_\beta

  • ωω{}^{\omega} {\omega} で共終である:(gωω)(α<κ)g<fα(\forall g \in {}^{\omega} {\omega})(\exists \alpha < \kappa)\, g <^* f_\alpha

κ\kappa-scale は常に存在するとは限らない.しかし,CH の下では 1=20\aleph_1 = 2^{\aleph_0}-scale が存在する:

連続体仮説の下で,202^{\aleph_0}-scale が存在する.

Proof. {gα  |  α<ω1}\left\{\: g_\alpha \;\middle|\; \alpha < \omega_1 \:\right\}ωω{}^{\omega} {\omega} の列挙とする.これを用いて,fα<fβ(α<β<ω1)f_\alpha <^* f_\beta\, (\alpha < \beta < \omega_1)gα<fβ(α<β)g_\alpha <^* f_\beta\,(\alpha < \beta) となるように定めたい.

f0(n)=nf_0(n) = n とする.後続順序数のときは,fα+1(n)=max{gα(n),fα(n)}+1f_{\alpha + 1}(n) = \max\{g_\alpha(n), f_\alpha(n)\} + 1 とすれば,上の条件を満たすように取れる.

α\alpha が極限順序数 γ\gamma の時を考える.特に,γ<ω1\gamma < \omega_1 なので,cf(γ)=ω\mathrm{cf}(\gamma) = \omega であるから,狭義単調増加な共終写像 h:ωγh: \omega \rightarrow \gamma が取れる.そこで, fγ(n)=fh(n)(n)f_{\gamma}(n) = f_{h(n)}(n) と置く.hh の共終性より,β<γ\beta < \gamma に対し,β<h(n)<γ\beta < h(n) < \gamma となるような n<ωn < \omega が取れ,帰納法の仮定より fβ<fh(n)f_\beta <^* f_{h(n)} となる.すると,ある <ω\ell < \omega があって,kfβ(k)<fh(n)(k)k \geq \ell \longrightarrow f_\beta(k) <^* f_{h(n)}(k) となる.そこで,mmax{,n}m \geq \max\{\ell, n\} とすると, fβ(m)<fh(n)(m)fh(m)(m)=fγ(m)f_\beta(m) < f_{h(n)}(m) \leq f_{h(m)}(m) = f_\gamma(m) よって fβ<fγf_\beta <^* f_\gamma となる.また,帰納法の仮定から gβ<fβ+1<fγg_\beta <^* f_{\beta + 1} <^* f_{\gamma} となるので二番目の条件もOK.

取り方より,こうして作られた {fα  |  α<ω1}\left\{\: f_\alpha \;\middle|\; \alpha < \omega_1 \:\right\}202^{\aleph_0}-scale となる.

次の命題が,Banach-Kuratowski の一般化になっている:

κ\kappa-scale が存在するなら,κ\kappa は実数値可測基数ではない.

Proof. fα  |  α<κ\left\langle\: f_\alpha \; \middle|\; \alpha < \kappa \:\right\rangleκ\kappa-sclae とする.κ\kappa の部分集合を成分とする (0,0)(\aleph_0, \aleph_0)-行列を次で定義する: An,k={α<κ  |  fα(n)=k}A_{n, k} = \left\{\: \alpha < \kappa \;\middle|\; f_\alpha(n) = k \:\right\} 定義より,各 n<ωn < \omega に対し {An,k  |  k<ω}=κ\bigcup \left\{\: A_{n, k} \;\middle|\; k < \omega \:\right\} = \kappa が成立している.μ\muκ\kappa 上の非自明な κ\kappa-加法的測度とする.各 nn に対し, μ(An,0An,kn)112n+1\mu(A_{n, 0} \cup \dots \cup A_{n, k_n}) \geq 1 - \frac{1}{2^{n+1}} となるように kn<ωk_n < \omega を定め,Bn=An,0An,knB_n = A_{n, 0} \cup \dots \cup A_{n, k_n} とおく.ここで B=n<ωBnB = \bigcap_{n < \omega} B_n とおけば,明らかに μ(B)12\mu(B) \geq \frac{1}{2} である.

そこで,g:ωωg: \omega \rightarrow \omegag(n)=kng(n) = k_n により定める.BB および An,kA_{n, k} の定義より,任意の αB\alpha \in B に対し fαgf_\alpha \leq^* g が成立する.ここで,BB の測度は正なので B=κ|B| = \kappa であるから,共終的に多くの α<κ\alpha < \kappa に対し fαgf_\alpha \leq^* g が成立することになる.しかし,このことは fα  |  α<κ\left\langle\: f_\alpha \; \middle|\; \alpha < \kappa \:\right\rangleκ\kappa-scale であることに反する.よって κ\kappa 上の非自明な κ\kappa-完備測度は存在しないので,κ\kappa は実数値可測基数ではない.

上の二つを組み合わせて,直ちに次の結論を得る.

CH の下で,202^{\aleph_0} は実数値可測ではない.特に Lebesgue 測度の [0,1][0,1] 上への拡張は存在しない.

ここで,CH の下では 1=20\aleph_1 = 2^{\aleph_0} であり,1\aleph_1 上に Lebesgue 測度の拡張が存在すれば,1\aleph_1 は必然的に非自明な測度を持つ最小の基数となり,系 11 より実数値可測基数となることに注意しよう.

以上の結果を連続体仮説に否定的な命題と見るのか,Measure Problem に否定的な命題と見るのかは個人によるだろう.しかし,近年の集合論研究によれば,自然な仮定の下で 20=22^{\aleph_0} = \aleph_2 となるという結果が幾つか知られており,その意味で(ZFC からは真偽を決定出来ないが)連続体仮説は偽であろうと考える研究者もいる.そうした観点からは,この結果は連続体仮説に否定的な印象を与えるものであると云える.

参考文献

  1. Thomas Jech. Set Theory: The Third Millennium Edition, revised and expanded. Springer Monographs in Mathematics. Springer, 2002.

  2. Akihiro Kanamori. The Higher Infinite: Large Cardinals in Set Theory from Their Beginnings. Springer Monographs in Mathematics. Springer, 2009.

  3. Kenneth Kunen. Set Theory, Vol. 34 of Mathematical Logic and Foundations. College Publications, 2011.

  4. 竹内外史. 新装版 集合とはなにか. 講談社ブルーバックス, 2001.


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