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Martinの公理と範疇定理
MA(κ)は「任意のc.c.c. poset
Pに対しMAP(κ)」という主張だった.この「c.c.c.」というのは落とせない,というのが次の補題:
¬MAP(ℵ1)となるような non-c.c.c. poset
Pが存在する.
Proof. 前回のゼミの際にFn(I,J)がc.c.c.を持つこととI=∅∨∣J∣≤ℵ0
であることが同値なことを見た.そこで,I=ω,J=ω1の場合を考えれば,P=Fn(ω,ω1)はc.c.c.を持たない.ここで,次の集合を考える: Dn:={p∈P∣n∈dom(p)}(n<ω)Eα:={p∈P∣α∈rng(p)}(α<ω1) p∈Pが有限であることから,各En,DnはPで稠密.そこでMAP(ω1)とすれば,{Dn,Eα}-ジェネリックなフィルターG⊆Pが取れる.特に,fG=⋃GとおくとfG:ωontoω1となる.これはω<ω1に反する.
ここでのPはc.c.c.でないposetの一例に過ぎない.c.c.c.よりも弱い条件しか満たしていなくても,MAP(ℵ1)は成り立ちうる.例えば「c.c.c.」という条件を「proper」という条件に弱めたPFAという公理はZFCと無矛盾で,MA(ℵ1)から独立な多くの命題を導くことが知られている.
まず初めに見るMAの応用は,Baireの範疇定理の一般化:
MA(κ)を仮定する.X:c.c.c.コンパクトHausdorff空間,Xα⊆X:閉疎集合(α<κ)
⟹α<κ⋃Xα=X
Proof. Xはc.c.c.を満たすので,空でない開集合の成すposet
OXもc.c.c.を満たすことに注意する.
補集合を取れば,結局示すべき事は次と同値である: Uα:稠密開集合(α<κ)⇒α<κ⋂Uα=∅ G⊆OXをフィルターとすると,Gは有限交叉性を持つ.ここで,FG:=⋂p∈Gpˉとおけば,FGは空でない.もしFG=∅だったとすると,⋃p∈Gpe=XはXの開被覆である.よってXのコンパクト性より,p0,…,pn∈GがあってX=p0e∪⋯∪pneと出来る.すると,p0∩⋯∩pn⊆p0ˉ∩…pnˉ=∅となり,pi∈Gに反する.
ここで,Dα:={p∈OX∣pˉ⊆Uα}(α<κ)と置くと,各Dαは稠密である.それを示すため,p∈OXを取ろう.Uαは稠密開集合なので,p∩Uα∈OXである.今,XはコンパクトHausdorff空間なので特に正則空間となり,qˉ⊆p∩Uαとなるような空でない開集合q∈OXを取ることが出来る.この時取り方から明らかにq≤pかつq∈Dα.よって各DαはOXで稠密である.
そこで,MA(κ)により,{Dα}-ジェネリックなフィルターG⊆OXを取る.先程の議論よりFG=⋂p∈Gpˉ=∅である.特に,G∩Uα=∅より各αについて⋂ppˉ⊆pˉ⊆Uαとなるようなp∈Gが存在する.よって, α<κ⋂Uα⊇p∈G⋂pˉ=∅
ジェネリックフィルターの補題よりκ=ωの場合はc.c.c.性を落として,一般のコンパクトHausdorff空間について成り立つことになる.最初にも述べたように,これはBaireの範疇定理の拡張になっていて,ここでMA(κ)を使ってジェネリックフィルターを取っている部分が通常の証明で開集合のω-列を取る所と対応している.実際にはこの形の命題はMA(κ)と同値である事が後の節でわかる.
この定理は,もしXが孤立点を持つならMA(κ)など仮定しなくても自明に成立する(孤立点は一点で開集合になるので).これは,Pがアトムを持つ時にMAP(κ)が自明に成立するのと似ている.
r∈PがPのアトムdef∀p,q≤r[p∥q]
特に,Hausdorff空間の場合,r∈OXがアトム⇔∣r∣=1である.
r∈Pがアトムなら,∀κMAP(κ)
Pがアトムを持たないなら,¬MAP(2∣P∣)
もしもPがアトムを持たないなら,任意のr∈Pについて,それより下に少なくとも可算濃度の反鎖が存在することがわかる:
Pがアトムを持たない⇒∀r∈P∃A⊆↓r[∣A∣≥ℵ0∧A は反鎖]
Martinの公理と小さな基数
mを¬MA(κ)となる最小のκとする.
今までの結果を纏めると,ℵ1≤m≤cとなるこれは第一節で議論した小さな基数たちの範囲と同じだが,特にmは今まで議論した中で最小なことがわかる.この記号を使えばMA⇔m=cだから,MAの下ではこれらの基数は全てcと一致することになる.今回は特にm≤pを示す.
集合族Eが強有限交叉性(Strong
Finite Intersection Property; SFIP)を持つ
def∀F∈[E]<ω∣⋂F∣≥ℵ0
KがE⊆[ω]ωの擬共通部分(pseudointersecion)である
def∣K∣=ℵ0∧∀Z∈E[K⊆∗Z]
p=SFIPを持つが擬共通部分を持たないような[ω]ωの部分集合の最小濃度
第一節で議論した髭文字系の小さな基数の中でpは最小だった.以下ではm≤pを示す:
m≤p
Proof. κ<m→κ<pを示そう.即ち,MA(κ)を仮定し,E⊆[ω]ωをSFIPを持つ濃度κの族とした時,Eは擬共通部分Kを持つことを示す.
P:={p=⟨sp,Wp⟩:sp∈[ω]<ω∧Wp∈[E]<ω}と置く.気持ちとしては各spがKの下からの有限近似であり,Wpはspの差を除いてKを含むことが保証されたEの元の一覧になっている.その気持ちを念頭において,P上に次のように順序を定める:
p≤qdef⎩⎨⎧sp⊇sqWp⊇Wq∀Z∈Wq[sp∖sq⊆Z](sp は sqよりよい近似)(Wp は Wq より沢山保証)(p は q の約束を破らない) これにより,⟨P,≤,⟨∅,∅⟩⟩がforcing
posetとなるのは明らか.MA(κ)を使いたいので,Pがc.c.c.を満たすことを示さなくてはならない.ここで,
sp=sq⟶sp∥sq(∗) が成立する.なぜならこの時,r=⟨sp,Wp∪Wq⟩とおけば明らかにr≤p,qとなるからである.特に各s∈[ω]<ωは可算個しかないから,もしA⊆Pが非可算集合であったとすると,必ずsp=sqとなるp,q∈Aがありsp∥sqとなるので,Aは反鎖ではない.よってPはc.c.c.を満たす.
G⊆Pをフィルターとするとき,KG:=⋃pspによりKG⊆ωを定める.この時,KGがEの擬共通部分となるようにしたい.より具体的には,次の二条件を満たすようにしたい:
∣KG∣≥ℵ0
∀Z∈E∃s∈[ω]<ω[KG∖s⊆Z]
まず(1)を成立させるには,Gを次の各集合と交わるように取ればよいことがわかる:
Dn:={q∈P:∣q∣≥n}(n<ω) ここで,EがSFIPを持つことから各Dnは稠密集合となる事がわかる.これを示すため,p∈Pを任意に取る.この時WpはEの元からなる有限集合であり,EがSFIPを持つことから⋂Wpは無限集合となる.よってt∈[⋂Wp]nが取れ,r=⟨sp∪t,Wp⟩とおけば,Dn∋r≤pとなる.よってDnの全体は可算個しかないので,G∩Dn=∅
となるようにできる.
次に(2)を成り立たせたい.各Z∈Eに対しEZ:={q∈P:Z∈Wq}の形の集合を考えると,これはPの稠密集合である.これは,p∈Pに対しr=⟨sp,Wp∪{Z}⟩とおけばr≤pかつr∈EZとなることから明らかである.このようなEZは∣E∣=κ個しかなく,今MA(κ)を仮定しているので,フィルターGを各EZと交わるように取ることが出来る.この時(2)が成立することは,次のようにしてわかる.適当なZ∈Eを取れば,G∩EZ=∅よりZ∈Wpを満たすようなp∈Gが存在する.この時,任意のq∈Gに対しsq∖sp⊆Zとなることが示せれば十分である.何故ならこのときKG∖sp=⋃q(sq∖sp)⊆Zとなるからである.Gはフィルターなので,r≤p,qとなるようなr∈Gが存在する.特に順序の定義からsr⊇sqかつsr∖sp⊆Z∈Wpとなっているので,sq∖sp⊆Zが云える.以上よりKGはEの擬共通部分である.
上の議論では (⋆)
の条件が本質的な役割を果している.MAを用いた議論ではしばしばこれに類似の論法が使われるので,それをちょっと詳しく見てみよう:
C⊆Pがcentered def∀p0,…,pn∈C∃q∈P∀i[q≤pi]
Pがσ-centereddefPは可算個のcentered部分集合の和である.
C⊆Pがcenteredであるというのは,有限交叉性の一般化になっている.例えば,位相空間Xに対しOXを考えると,C⊆OXがcenteredであることとCが有限交叉的であることは同値である.
実際,上の補題が実際に使っているのはMA(κ)をσ-centeredな集合に制限したものである.より強く,次が成り立つ:
補題 5で用いたposetは可算個のフィルターの和で表せる.特にσ-centeredである.
Proof. 各s∈[ω]<ωに対し,Cs:={p∈P:sp=s}とおけばP=⋃sCsである.特に,p,q∈Csならばr∈Csの範囲でr≤p,qとなるものが取れる.よってCsはフィルター基になっており,Fs=↑CsとおけばFsはフィルターとなり,P=⋃sCs=⋃sFsとなる.
上の証明では,各Csを拡張する際に各piの下界が再びCsに属することを使っているが,一般のσ-centered集合でそうなっている訳ではない.実用上殆んどの場合はσ-centered
なposetはフィルターの可算和で書けるが,そうでないような例も知られている.
また,これも後で見ることだが,κ<pであることと,MAP(κ)がσ-centeredな物について成立することは同値となる.
centeredな集合の二元は両立してしまうため,反鎖は各centered集合の元を高々一つしか持たないことがわかる.これは,正しく先程の証明の論法を一般化したものになっている:
Pがσ-centered ⇒Pはc.c.c.を持つ
一般に逆は不成立である:
XをコンパクトHausdorff空間とすると,次は同値:
Xは可分
OXはσ-centered
OXはフィルターの可算和
特に,κ>c,X=κ2とすると,OXはc.c.c.だがσ-centeredでない順序集合の例になっている.
Proof. OXではcentered性と有限交叉性は同値であったので,centered集合から生成されるフィルターを考えれば(2)⇔(3)はOK.そこで(1)⇔(3)を示す.
(⇒)を示そう.D={dn:n<ω}⊆XをXの可算な稠密集合とする.この時Un:={p∈OX:dn∈p}とおけば,各Unはフィルターとなる.この時Dの稠密性より空でない開集合はdiのいずれかを元にもつので,OX=⋃nUnとなる.
(⇐)を示す.フィルターFnによりOX=⋃nFnと書けているとする.この時超フィルターの補題によって各フィルターを超フィルターFn⊆Unに拡張する.Xはコンパクトなので各Unは必ず収束点を持ち,Hausdorff性よりその収束先は一意に来まる.そこで,
D={dn=limUn:n<ω} と置き,DがXの稠密集合であることを示す.U∈OXを任意にとれば,XはコンパクトHausdorff空間なので正則空間となり,V∈OXでVˉ⊆Uを満たすものが取れる.すると仮定よりV∈Unとなるようなn<ωが存在する.今Unはdnに収束するので,位相空間の一般論よりdn∈Vˉ⊆Uとなる.よってU∩D=∅.
κ>cの時X=κ2がσ-centeredでないc.c.c.
posetの例になっていることは次のようにしてわかる.まず2は可分なので,教科書の系III.2.10よりその直積κ2はc.c.c.となり,OXもc.c.c.となる.ところで,教科書の補題III.2.11によれば,Xiが二点以上持つHausdorff空間で∣I∣>cの時,∏i∈IXiは可分ではない.よってκ2は可分ではない.Tychonoffの定理よりXはコンパクトであり,Hausdorff性も明らか.よって上の結果より,OXはσ-centeredではない.
参考文献
[1]
松坂和夫, 集合・位相入門. 岩波書店,
1986.
[3]
K.
Kunen, Set theory, vol. 34. College Publications, 2011.