概要

強制公理Forcing Axiom)とは,ある種類の強制法による拡大と現在の宇宙がある意味で「近い」ことを述べる公理ですが,これはZornの補題従属選択公理DC\mathrm{DC})の一般化と見ることも可能です.後者の説明は,強制法の理論に関する知識が必要ないため,集合論以外の分野の人にもある程度理解しやすいことが期待されます.

そこで本稿では,強制公理の強い選出原理としての側面に焦点を当てて,強制法に馴染みの無い人にも強制公理がどんなものなのかを解説し,ついでに強制法とは何かについても軽く説明していきたいと思います.対象読者層としては,学部三〜四年程度の数学を知っていてZornの補題を使って何かを作る議論をしたことがあれば十分なようにしたつもりです.

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復習:選択公理とZornの補題,従属選択公理

選択公理が現代数学にとって不可欠な公理であることは,構成的数学や直観主義数学を別にすれば,多くの数学者が認める所だろう. 実際,次に挙げるような命題は,全て選択公理から導かれる:

次はZFC\mathrm{ZFC}の定理:

  1. 任意のベクトル空間は基底を持つ.

  2. Krullの定理:任意の単位的可換環は真の極大イデアルを持つ.

  3. Tychonoffの定理:コンパクト空間の任意集合個の直積はコンパクト.

  4. Baireの範疇定理:完備距離空間の可算個の稠密開集合の共通部分は稠密.

他の選択公理と数学の諸分野の定理の関連についてはalg_d氏のサイト  [1] が異様に詳しい.

これらは直接選択公理から示すこともできるが,大抵は次の特徴付けを使って,Zornの補題から示される:

ZF\mathrm{ZF}上次は同値:

  1. 選択公理AC\mathrm{AC}):任意の集合Λ\Lambdaと空でない集合の族XλundefinedλΛ\left\langle\: X_\lambda \; \middle|\; \lambda \in \Lambda \:\right\rangleに対し,その直積λΛXλ\prod_{\lambda \in \Lambda} X_\lambdaは空ではない.

  2. 整列可能定理WO\mathrm{WO}):任意の集合XXに対し,XX上の整列順序が存在する.

  3. Zornの補題Zorn\mathrm{Zorn}):任意の帰納的順序集合は極大元を持つ. ここで,P\mathbb{P}が帰納的順序集合であるとは,P\mathbb{P}の任意の全順序部分集合が上界を持つことである.

では試しにKrullの定理を証明してみよう.

(R,+,,0,1)(R, {+}, {\cdot}, 0, 1)を単位的可換環とし,I\mathfrak{I}RRの真のイデアル全体とする. (0)I(0) \in \mathfrak{I}なのでI\mathfrak{I}は空ではないことに注意する. Zornの補題を使いたいので,(I,)(\mathfrak{I}, {\subseteq})が帰納的順序集合となることを示そう. 実際,IλundefinedλΛ\left\langle\: I_\lambda \; \middle|\; \lambda \in \Lambda \:\right\rangleI\mathfrak{I}の全順序部分集合とするとき,I:=λIλI^* \mathrel{:=} \bigcup_\lambda I_\lambdaRRの真のイデアルとなっている. 1I1 \notin I^*であるのは1Iλ1 \notin I_\lambdaが任意のλΛ\lambda \in \Lambdaについて成り立つことから明らか. また,a,bIa, b \in I^*とすると,aIλaa \in I_{\lambda_a}, bIλbb \in I_{\lambda_b}となるλa,λbΛ\lambda_a, \lambda_b \in \Lambdaが取れるが,全順序性よりIλaIλbI_{\lambda_a} \subseteq I_{\lambda_b}として一般性を失わない. すると,IλbI_{\lambda_b}がイデアルであることからabIλbIa - b \in I_{\lambda_b} \subseteq I^*となるのである. RIIR I^* \subseteq I^*も明らか.よってIII^* \in \mathfrak{I}であるから,I\mathfrak{I}は帰納的である. よってI\mathfrak{I}\subseteq-極大元JIJ \in \mathfrak{I}を持つが,これはJJが真の極大イデアルであるということである.

一方,実は上で挙げたBaireの範疇定理については,選択公理より真に弱い原理から導かれる事が知られている.

従属選択公理(Axiom of Dependent Choice, DC\mathrm{DC})とは次の主張である:

任意の空でない集合XXとその上の二項関係RRについて,XXRR-極大元を持たないなら,RR-無限昇鎖が存在する. 即ち,xnXundefinednN\left\langle\: x_n \in X \; \middle|\; n \in \mathbb{N} \:\right\ranglexnRxn+1x_n \mathrel{R} x_{n+1}となるものが取れる.

ZF\mathrm{ZF}の下でDC\mathrm{DC}は次と同値:

任意の空でないXXとその上の極大元を持たない二項関係RRについて,任意のx0Xx_0 \in Xから始まるRR-無限昇鎖x0Rx1Rx2Rx_0 \mathrel{R} x_1 \mathrel{R} x_2 \mathrel{R} \dotsが存在する.

S\mathbb{S}を次で定める: S:={σ:Xの有限列undefinedσnRσn+1(n<length(σ)),σ0=x0}\begin{gathered} \mathbb{S} \mathrel{:=} \left\{\: \sigma : X\text{の有限列} \;\middle|\; \sigma_n \mathrel{R} \sigma_{n+1} \;(\forall n < \mathop{\mathrm{length}}(\sigma)), \sigma_0 = x_0 \:\right\}\\ \end{gathered} XXRR-極大元を持たないことから,(S,)(\mathbb{S}, \subsetneq)が極大元を持たないことは明らか. そこでS\mathbb{S}の無限昇鎖σnundefinedn<ω\left\langle\: \sigma^n \; \middle|\; n < \omega \:\right\rangleを取る. このときσ:=nσn\sigma \mathrel{:=} \bigcup_n \sigma^nとおけば,σnRσn+1\sigma_n \mathrel{R} \sigma_{n+1}であり,σ0=x0\sigma_0 = x_0となっている.

ZF+DC\mathrm{ZF}+\mathrm{DC}の下で,任意の完備距離空間の可算個の稠密開集合の共通部分は稠密.

(X,d)(X, d)を完備距離空間とし,DnundefinednN\left\langle\: D_n \; \middle|\; n \in \mathbb{N} \:\right\rangleを稠密開集合の可算列とする. XXは距離空間なので,任意のxXx \in XrQr \in \mathbb{Q}に対して,B(x;r)nXnB(x; r) \cap \bigcap_n X_n \neq \emptysetを示せればよい. 適宜x,rx, rを取り直せば,以下B(x;r)D0B(x; r) \subseteq D_0であるとして一般性を失わない. そこで,(xn,rn)nN(x_n, r_n)_{n \in \mathbb{N}}を次を満たすように取る:

  1. x0:=xx_0 \mathrel{:=} x, r0:=r,rn+1<rn/2r_0 \mathrel{:=} r, r_{n+1}< r_n/2,

  2. d(xn,xn+1)<rn/4d(x_n, x_{n+1}) < r_n/4,

  3. B(xn,rn)DnB(x_n, r_n) \subseteq D_n.

こうしたxnundefinednN\left\langle\: x_n \; \middle|\; n \in \mathbb{N} \:\right\rangleは明らかにCauchy列であり,d(x,xn)rn/2d(x^*, x_n) \leq r_n / 2を満たすので任意のnnについてxB(xn;rn)Dnx^* \in B(x_n; r_n) D_nであり更にxB(x;r)=B(x0;r0)x^* \in B(x; r) = B(x_0; r_0)も言える. よってxnDnB(x;r)x^* \in \bigcap_n D_n \cap B(x; r)を得る.

後は実際に上の3条件を満たす(xn,rn)n(x_n, r_n)_nが取れることを見ればよい. 普通にやろうとすると,まずn=0n = 0の場合を満たすx0,r0x_0, r_0を取るのはD0D_0の稠密開性から自明で,次に(xn,rn)(x_n, r_n)まで取れたとすると……という形で帰納法により議論を進める.

これは本質的にDC\mathrm{DC}を使った議論になっている. これを見るため,P\mathbb{P}とその上の関係\lhdを次で定める: P:={(n,z,q)N×X×QundefinedB(z,q)Dn},(n,z,q)(n,z,q)defn=n+1q<q2d(z,z)<q4.\begin{gathered} \mathbb{P} \mathrel{:=} \left\{\: (n, z, q) \in \mathbb{N} \times X \times \mathbb{Q} \;\middle|\; B(z, q) \subseteq D_{n} \:\right\},\\ (n, z, q) \lhd (n', z', q') \xLeftrightarrow{\mathrm{def}} n' = n + 1 \land q' < \frac{q}{2} \land d(z, z') < \frac{q}{4}. \end{gathered} このとき(0,x,r)P(0, x, r) \in \mathbb{P}なので,P\mathbb{P}は空ではない. 極大元を持たないことを示すため,適当な(n,z,q)P(n, z, q) \in \mathbb{P}を取り,(n,z,q)(n+1,z,q)(n, z, q) \lhd (n+1, z', q')となる(n,q)(n', q')を探そう. このときDn+1D_{n+1}の稠密開性よりU:=B(z,q/4)Dn+1U \mathrel{:=} B(z, q/4) \cap D_{n+1}は空でない開集合である. そこで適当なzUz' \in Uを取る. UUは開なので,十分小さなq<q/2q' < q/2B(z,q)UDn+1B(z', q') \subseteq U \subseteq D_{n+1}を満たすものが取れる. すると,取り方から明らかに(n,z,q)(n,z,q)(n, z, q) \lhd (n', z', q')となる.

よってP\mathbb{P}\lhd-無限昇鎖xn,rnundefinednN\left\langle\: x_n, r_n \; \middle|\; n \in \mathbb{N} \:\right\rangle(0,x,r)(0, x, r)から始まるものが取れ,これこそ求めるものである.

選出原理と,近似論法としての強制法公理

上で見たいずれの証明も,最終的に欲しいものの「部分近似」の全体を考え,それらを極限まで貼り合わせたものをZornの補題や従属選択公理を使ってとってくる,ということをやっている. 実際,Krullの定理では極大イデアルの近似として真のイデアルを持ってきているし,Baireの範疇定理ではB(x;r)nDnB(x; r) \cap \bigcap_n D_nの中への収束列の有限部分列を「近似」として取ってきている. しかも,これらの近似の間には或る種の順序のようなものが入っていた.

そこで,こうした近似の理論を一般化した枠組みを定義しよう. ただし,集合論の伝統と合わせるために上とは順序の順番が逆になるようになっている.

  • (P,P,1P)(\mathbb{P}, {\leq}_{\mathbb{P}}, \mathbb{1}_{\mathbb{P}})擬順序poset)または強制概念def\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} P\leq_{\mathbb{P}}P\mathbb{P}上の反射・推移的な二項関係であり,1\mathbb{1}が最大元.

  • DPD \subseteq \mathbb{P}稠密def\xLeftrightarrow{\mathrm{def}}任意のpPp \in \mathbb{P}に対して,あるdDd \in DがあってdPpd \leq_{\mathbb{P}} p.

  • FPF \subsetneq \mathbb{P}フィルターdef\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} 1F\mathbb{1} \in F, p,qFrp,qrFp, q \in F \implies \exists r \leq p, q \: r \in F, qpFqFq \geq p \in F \implies q \in F.

  • D\mathcal{D}P\mathbb{P}の稠密集合からなる族とする. フィルターGGD\mathcal{D}-生成的D\mathcal{D}-genericdef\xLeftrightarrow{\mathrm{def}}任意のDDD \in \mathcal{D}に対しDGD \cap G \neq \emptyset.

  • 強制公理K\mathcal{K}を擬順序のクラスとする. このときFAκ(K)\mathrm{FA}_\kappa(\mathcal{K})は次の言明である:

    任意の擬順序PK\mathbb{P} \in \mathcal{K}P\mathbb{P}の濃度κ\kappaの稠密集合の族D\mathcal{D}に対しD\mathcal{D}-生成フィルターが存在.

    FAκ(K)\mathrm{FA}_\kappa(\mathcal{K})の形の公理を強制公理と呼ぶ. また,特にFAκ(P):FAκ({P})\mathrm{FA}_\kappa(\mathbb{P}) \mathrel{{:}{\equiv}} \mathrm{FA}_\kappa(\left\{ \mathbb{P} \right\})と略記する.

  • (P,)(\mathbb{P}, \leq)Zorn的であるとは,双対順序(P,)(\mathbb{P}, \geq)が帰納的順序集合であること. 即ち,P\mathbb{P}の任意の全順序部分集合が下界を持つこと.

  • ppqq両立する(記号:pqp \mathrel{\|} qdef\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} rp,qr \leq p, qとなるrPr \in \mathbb{P}が存在する.

    ppqqが両立しないときpqp \perp qと書く.

  • (P,)(\mathbb{P}, \leq)半分離的def\xLeftrightarrow{\mathrm{def}}任意のpPp \in \mathbb{P}について,ppが極小でないなら,両立しないq,rpq, r \leq pが存在する.

これを使うと,次のようにしてDC\mathrm{DC}Zorn\mathrm{Zorn}を特徴付けることができる:

  1. DCFA0(任意の擬順序)\mathrm{DC} \iff \mathrm{FA}_{\aleph_0}(\text{任意の擬順序})

  2. ZornκFAκ(半分離Zorn的順序集合)\mathrm{Zorn} \iff \forall \kappa\: \mathrm{FA}_\kappa(\text{半分離Zorn的順序集合})

  1. (DCFA0)(\mathrm{DC} \implies \mathrm{FA}_{\aleph_0})(P,)(\mathbb{P}, \leq)を任意の擬順序とし,D={DnPundefinedn<ω}\mathcal{D} = \left\{\: D_n \subseteq \mathbb{P} \;\middle|\; n < \omega \:\right\}P\mathbb{P}の稠密集合の族とする. 以下を満たすようなpnPundefinednN\left\langle\: p_n \in \mathbb{P} \; \middle|\; n \in \mathbb{N} \:\right\rangleを取ればよい: p0:=1P,pnpn+1Dn.p_0 \mathrel{:=} 1_{\mathbb{P}},\; p_n \geq p_{n+1} \in D_n. これが取れれば,G:={qPundefinednqpn}G \mathrel{:=} \left\{\: q \in \mathbb{P} \;\middle|\; \exists n \: q \geq p_n \:\right\}が求めるものとなる. 実際,定義からGGは上に閉じており,q,rGq, r \in Gならpnqp_n \leq qかつpmrp_m \leq rとなるn,mn, mが取れる. このときnmn \leq mとして一般性を失わず,pnpmp_n \leq p_mよりpnq,rp_n \leq q, rを得る. 従ってGGはフィルターを成す. 更にpn+1DnGp_{n+1} \in D_n \cap GよりD\mathcal{D}-生成的にもなっている.

    こうしたpnundefinednN\left\langle\: p_n \; \middle|\; n \in \mathbb{N} \:\right\rangleDC\mathrm{DC}を認めれば簡単に取れる. 実際,pnp_nが出来ていれば,DnD_nの稠密性からpn+1pnp_{n+1} \leq p_nとなるpn+1Dnp_{n+1} \in D_nは常に存在する. これにDC\mathrm{DC}を適用すれば,求める可算列pnundefinednN\left\langle\: p_n \; \middle|\; n \in \mathbb{N} \:\right\rangleが取れるのは,上のBaireの範疇定理の証明と同様である.

    (FA0DC)(\mathrm{FA}_{\aleph_0} \implies \mathrm{DC})XX\lhd-極大元を持たない集合とする. (P,)(\mathbb{P}, {\leq})を次で定める: σPdefnN{σ:nX,i<n1[σ(i)σ(i+1)],στdefτσ.\begin{aligned} \sigma \in \mathbb{P} &\xLeftrightarrow{\mathrm{def}}\exists n \in N \begin{cases} \sigma : n \to X,\\ \forall i < n - 1\: \left[\sigma(i) \lhd \sigma(i+1)\right], \end{cases}\\ \sigma \leq \tau &\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \tau \supseteq \sigma. \end{aligned} このとき,各nNn \in \mathbb{N}に対して,Dn:={σPundefinedlength(σ)>n}D_n \mathrel{:=} \left\{\: \sigma \in \mathbb{P} \;\middle|\; \mathop{\mathrm{length}}(\sigma) > n \:\right\}P\mathbb{P}で稠密である. 実際,\lhdが極大元を持たないことから,任意のσP\sigma \in \mathbb{P}について,σ\sigmaの長さがnnよりも小さければ,σ\sigmaの最後の元よりも\lhdの意味で大きな元を付け足す作業を任意有限回繰り返せば,nnよりも長さがnnより大きな有限列に拡張出来る.

    いまFA0(P)\mathrm{FA}_{\aleph_0}(\mathbb{P})を使えば,フィルターGGで任意のnnに対しDnGD_n \cap G \neq \emptysetを満たすものが取れる. そこでf:=Gf \mathrel{:=} \bigcup Gとおけば,GGがフィルターであることからffは関数であり,特にDnGD_n \cap G \neq \emptysetより任意のnNn \in \mathbb{N}についてndom(f)n \in \mathrm{dom}(f)となっている. よってf:NXf: \mathbb{N} \to Xであり,P\mathbb{P}の定義からf(n)f(n+1)f(n) \lhd f(n+1)が任意のnnについて言える. これが求めるものであった.

  2. (ZornκFAκ(半分離Zorn))(\mathrm{Zorn} \implies \forall \kappa\: \mathrm{FA}_\kappa(\text{半分離}\mathrm{Zorn}))Zorn\mathrm{Zorn}の補題を仮定し,Zorn的順序集合(P,)(\mathbb{P}, {\leq})を固定する. この時,P\mathbb{P}\leq-極小元pPp \in \mathbb{P}を持つ. ここでG:={qPundefinedqp}G \mathrel{:=} \left\{\: q \in \mathbb{P} \;\middle|\; q \geq p \:\right\}とおく. GGがフィルターであることは明らか. あとはGGP\mathbb{P}の任意の稠密集合DDと交わる事を示せばよいが,DDの稠密性によりdpd \leq pとなるものを取ると,ppの極小性からd=pd = pとなりpDGp \in D \cap Gとなる. よってGGは任意の稠密集合と交わるので,FAκ(P)\mathrm{FA}_\kappa(\mathbb{P})が任意のκ\kappaについて成り立つ.

    (κFAκ(半分離Zorn)Zorn)(\forall \kappa\: \mathrm{FA}_\kappa(\text{半分離}\mathrm{Zorn}) \implies \mathrm{Zorn})(P,)(\mathbb{P}, \leq)をZorn的順序集合として,P\mathbb{P}\leq-極小元を持つことを示せばよい. そこで,P\mathbb{P}が極小元を持たなかったとして矛盾を導く(背理法). FA2P(P)\mathrm{FA}_{2^{\lvert\mathbb{P}\rvert}}(\mathbb{P})により,P\mathbb{P}の任意の稠密集合と交わるフィルターGPG \subseteq \mathbb{P}が取れる. このとき,D:=PGD \mathrel{:=} \mathbb{P} \setminus Gが稠密集合になってしまうことが示せれば,GD=G \cap D = \emptysetなので矛盾が言える. そこで任意にpPp \in \mathbb{P}を取れば,仮定より極小元ではなく,半分離性よりq,rpq, r \leq pqrq \perp rとなるものが取れる. GGはフィルターなので,q,rq, rの少なくとも一方はGGに属さない. よってDDは稠密となり,GGは生成的では有り得ない.

集合論を良く知っている人向けに言えば,結局Zornの補題は(そしてそれと同値な選択公理は)「帰納的順序集合は強制法として自明」という事を述べているのに外ならない.

という訳で,我々が普段の議論で使う構成の幾つかは,何らかの生成的フィルターの存在として述べられそうだという事がわかった. では試しに,制限されたHahn–Banachの定理をDC\mathrm{DC}から証明してみよう1

ZF+DC\mathrm{ZF}+\mathrm{DC}において次の制限されたHahn–Banachの定理が成り立つ:

VVを可分Banach空間,p:VRp: V \to \mathbb{R}を原点で連続な劣線型汎関数,WVW \subseteq Vを部分空間,f:WRf: W \to \mathbb{R}fWpf \leq_W pなる線型汎関数とする. このとき線型汎関数fˉ:VR\bar{f}: V \to \mathbb{R}fˉW=f\bar{f} \upharpoonright W = fかつfˉVp\bar{f} \leq_V pを満たすものが存在する.

まず,普通にHahn–Banachを示すときに使われる次の補題は,ZF+DC\mathrm{ZF}+\mathrm{DC}でも成り立つので認めてしまう:

ZF+DC\mathrm{ZF}+\mathrm{DC}で次が成立:

WVW \subseteq Vを実線型空間とする.p,fp, fに関する上の仮定の下で,任意のzVW\mathbf{z} \in V \setminus Wに対し,線型汎関数f:W+RzRf' : W + \mathbb{R}\mathbf{z} \to \mathbb{R}fW=ff' \upharpoonright W = fかつfW+Rzpf' \leq_{W + \mathbb{R}\mathbf{z}} pを満たすものが取れる.

P\mathbb{P}とその上の順序\leqを次で定める: P:={g:WRundefinedWWV,gf,gWp}ghdefgh.\begin{gathered} \mathbb{P} \mathrel{:=} \left\{\: g : W' \to \mathbb{R} \;\middle|\; W \subseteq W' \subseteq V, g \supseteq f, g \leq_{W'} p \:\right\}\\ g \leq h \xLeftrightarrow{\mathrm{def}} g \supseteq h. \end{gathered} VVの可算な稠密集合をenundefinedn<ω\left\langle\: \mathbf{e}_n \; \middle|\; n < \omega \:\right\rangleとおく. すると,各Dn:={gPundefineddndom(g)}D_n \mathrel{:=} \left\{\: g \in \mathbb{P} \;\middle|\; d_n \in \mathrm{dom}(g) \:\right\}P\mathbb{P}で稠密である. 実際,endom(g)=:Wg\mathbb{e}_n \notin \mathrm{dom}(g) \mathrel{=:} W_gとなるようなgPg \in \mathbb{P}があれば,上の補題からW:=W+RenW' \mathrel{:=} W + \mathbb{R}\mathbf{e}_n上定義されたhgh \supseteq ghW=gh \upharpoonright W = gかつhWph \leq_{W'} pを満たすものが取れる. よってhPgh \leq_{\mathbb{P}} gかつhDnh \in D_nとなる.

そこでFA0(P)\mathrm{FA}_{\aleph_0}(\mathbb{P})により,フィルターGPG \subseteq \mathbb{P}で任意のn<ωn < \omegaに対しGDnG \cap D_n \neq \emptysetとなるものを取る. f:=Gf' \mathrel{:=} \bigcup G, U:=dom(f)U \mathrel{:=} \mathrm{dom}(f')とおくと,WUVW \subseteq U \subseteq Vであり,fˉ\bar{f}UU上で定義された線型汎関数となる. 特にGDnG \cap D_n \neq \emptysetよりenU\mathbf{e}_n \in Uとなっているから,ff'VVの稠密部分空間上で定義された線型汎関数である.

いま,稠密性より任意のxV\mathbf{x} \in VはあるxnUundefinedn<ω\left\langle\: \mathbf{x}_n \in U \; \middle|\; n < \omega \:\right\rangleによってx=limnxn\mathbf{x} = \lim_{n \to \infty} \mathbf{x}_nの形で書けている. そこでfˉ(x):=limnf(xn)\bar{f}(\mathbf{x}) \mathrel{:=} \lim_n f'(\mathbf{x}_n)によりfˉ:VR\bar{f}: V \to \mathbb{R}を定める. まず個別のx\vec{\mathbf{x}}についてlimnf(xn)\lim_n f'(\mathbf{x}_n)は収束列である. 実際,ppが原点で連続なので, f(xn)f(xm)=f(xnxm)p(xnxm)0(as n,m).f'(\mathbf{x}_n) - f'(\mathbf{x}_m) = f'(\mathbf{x}_n - \mathbf{x}_m) \leq p(\mathbf{x}_n - \mathbf{x}_m) \to 0\quad (\text{as } n, m \to \infty). 次いでwell-defined性を確かめる.xnx\mathbf{x}_n \to \mathbf{x}かつxnx\mathbf{x}'_n \to \mathbf{x}なる二つの列を取れば,再びppの原点での連続性から f(xn)f(xn)p(xnx)+p(xxn)0(as n,m).f'(\mathbf{x}_n) - f'(\mathbf{x}'_n) \leq p(\mathbf{x}_n - \mathbf{x}) + p(\mathbf{x} - \mathbf{x}'_n) \to 0 \quad (\text{as } n, m \to \infty). 線型性とppで上から押さえられる事は明らか.

強制法とより強い強制公理MA\mathrm{MA}

前節まででZornの補題を初めとした選出原理がFAκ(K)\mathrm{FA}_\kappa(\mathcal{K})の形で定式化される事をみた. Zornの補題もDC\mathrm{DC}ZFC\mathrm{ZFC}から出て来る選出原理だが,FA\mathrm{FA}の形の特徴付けを使ってZFC\mathrm{ZFC}からはみ出す形で強化出来ないだろうか? そうして得られる最も典型的なものが次のMartinの公理である:

  • AP\mathcal{A} \subseteq \mathbb{P}反鎖def\xLeftrightarrow{\mathrm{def}}任意の相異なるp,qAp, q \in \mathcal{A}に対しpqp \perp q.

  • P\mathbb{P}可算鎖条件(countable chain condition; c.c.c.)を満たすdef\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} P\mathbb{P}の任意の反鎖の濃度は高々可算.

  • MA:κ<20FAκ(c.c.c.)\mathrm{MA} \mathrel{:\equiv} \forall \kappa < 2^{\aleph_0}\: \mathrm{FA}_{\kappa}(\text{c.c.c.})Martinの公理と呼ぶ.

MA\mathrm{MA}202^{\aleph_0}未満までしか主張していないのは,202^{\aleph_0}個までいくと明白に矛盾するからである:

ZF¬FA20(c.c.c.)\mathrm{ZF} \vdash \neg \mathrm{FA}_{2^{\aleph_0}}(\text{c.c.c.})

C:=<ω2:=(0,1の無限列の全体)\mathbb{C} \mathrel{:=} {}^{<\omega} {2} \mathrel{:=} (0, 1\text{の無限列の全体})とする. ¬FA20(C)\neg \mathrm{FA}_{2^{\aleph_0}}(\mathbb{C})を示す. C=0|\mathbb{C}| = \aleph_0なので,どんな順序を入れようが自明にc.c.c.を満たす. この時C\mathbb{C}に逆向きの包含関係で順序を入れたものを考えると,次はC\mathbb{C}で稠密となる: Dn:={pCundefineddom(p)>n}(nN),Ex:={pCundefinedxdom(p)p}(xR).\begin{gathered} D_n \mathrel{:=} \left\{\: p \in \mathbb{C} \;\middle|\; \mathrm{dom}(p) > n \:\right\} \;(n \in \mathbb{N}),\\ E_x \mathrel{:=} \left\{\: p \in \mathbb{C} \;\middle|\; x \upharpoonright \mathrm{dom}(p) \neq p \:\right\}\; (x \in \mathbb{R}). \end{gathered} 但し,ここでは実数を2={0,1}2 = \left\{ 0, 1 \right\}の無限列と同一視している. DnD_nは「nn桁目まで伸びること」,ExE_xは「xRx \in \mathbb{R}とはどこかの桁で異なっていること」を意味する. すると,{Dnundefinedn<ω}{ExundefinedxR}\left\{\: D_n \;\middle|\; n < \omega \:\right\} \cup \left\{\: E_x \;\middle|\; x \in \mathbb{R} \:\right\}の全体は高々濃度202^{\aleph_0}なので,FA20(C)\mathrm{FA}_{2^{\aleph_0}}(\mathbb{C})より全てのDnD_n, ExE_xと交わるフィルターGCG \subseteq \mathbb{C}が取れる. このときxG:=Gx_G \mathrel{:=} \bigcup GとおけばxG:ω2x_G: \omega \to 2である. よって生成性からGExGG \cap E_{x_G} \neq \emptysetを得,xGdom(p)px_G \upharpoonright \mathrm{dom}(p) \neq pとなるpGp \in Gが取れるが,定義よりpxGp \subseteq x_GなのでこれはxGxGx_G \neq x_Gを意味し矛盾.

一言で言ってしまえば,上で挙げたような稠密集合と全部交わるC\mathbb{C}のフィルターから得られる実数はVVにある実数全てと異なるから,そんなものはVVに存在し得ない,ということである.

一方,DC\mathrm{DC}を素直に一般化しようとするなら,FA1(任意の擬順序)\mathrm{FA}_{\aleph_1}(\text{任意の擬順序})では駄目なのか?という疑問が沸くかもしれない. しかし,ω1\omega_1が可算集合になってしまうのでそんなことはできない:

c.c.c.でない擬順序P\mathbb{P}¬FA1(P)\neg \mathrm{FA}_{\aleph_1}(\mathbb{P})となるものが存在.

P:=Col(ω,ω1):=(<ωω1,)\mathbb{P} \mathrel{:=} \mathrm{Col}(\omega, \omega_1) \mathrel{:=} ({}^{<\omega} {\omega_1}, {\supseteq})とする. 即ち,P\mathbb{P}ω1\omega_1の元の有限列に逆向きの包含関係で順序を入れた集合である. このとき,n<ωn < \omegaおよびα<ω1\alpha < \omega_1に対して次はP\mathbb{P}で稠密である: Dn:={pPundefinedndom(p)},Eα:={pPundefinedαran(p)}.D_n \mathrel{:=} \left\{\: p \in \mathbb{P} \;\middle|\; n \in \mathrm{dom}(p) \:\right\}, \quad E_\alpha \mathrel{:=} \left\{\: p \in \mathbb{P} \;\middle|\; \alpha \in \mathop{\mathrm{ran}}(p) \:\right\}. 実際,pPp \in \mathbb{P}は有限列なので,長さがnn以下だったら適当に延ばしてやればいいし,像にα<ω1\alpha < \omega_1が入っていなかったら後ろにα\alphaを付け足してやればいいだけだ. ここでもしFA1(P)\mathrm{FA}_{\aleph_1}(\mathbb{P})が成り立つなら,フィルターGPG \subseteq \mathbb{P}で全てのDnD_nおよびEαE_\alphaと交わるものが取れる. f:=Gf \mathrel{:=} \bigcup Gと置けばGDnG \cap D_n \neq \emptysetよりf:ωω1f: \omega \to \omega_1である. 更に,各α<ω1\alpha < \omega_1についてGEαG \cap E_\alpha \neq \emptysetとなるから,任意のα<ω1\alpha < \omega_1についてf(n)=αf(n) = \alphaとなるn<ωn < \omegaが取れる. よってf:ωω1f: \omega \to \omega_1は全射となる.しかしω1\omega_1は定義上ω\omegaから全射が存在しない最小の順序数なのでこれは矛盾.

P\mathbb{P}がc.c.c.を満たさないことは,例えば{αundefinedα<ω1}\left\{\: \langle \alpha \rangle \;\middle|\; \alpha < \omega_1 \:\right\}は互いに両立しない濃度1\aleph_1の集合になっている事から明らか.

この例についても,結局Col(ω,ω1)\mathrm{Col}(\omega, \omega_1)ω\omegaからVVにおけるω1\omega_1への全射の近似の全体になっているので,VVにそんなものは定義上存在し得ない,ということである.

ではVVの外には有り得るの?というツッコミに答えると,勿論「VVの外側」なんてものはないので字義通りには存在し得ないが,それでも仮想的に「外側にある」と思って議論できる枠組みがあり,それが強制法と呼ばれている.

以下,MMZFC\mathrm{ZFC}のモデル(VVとか)とし,PM\mathbb{P} \in Mを擬順序とする.

  • フィルターGP\mathbb{G} \subseteq \mathbb{P}(M,P)(M, \mathbb{P})-生成的def\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} {DPundefinedDM,DPで稠密}\left\{\: D \subseteq \mathbb{P} \;\middle|\; D \in M, D \text{は} P \text{で稠密} \:\right\}-生成的.

  • GG(M,P)(M, \mathbb{P})-生成的とするとき,MMGGによる強制拡大M[G]M[G]とはM[G]MM[G] \supseteq MかつGM[G]G \in M[G]なる最小のモデルの事である.

VVの任意の擬順序P\mathbb{P}に対し,その強制拡大V[G]V[G]があたかも存在するかのように扱うことが出来るし,VVからV[G]V[G]の真偽をあるていど計算出来る.

より詳しく,以下を満たす(VP,P)(V^{\mathbb{P}}, {\Vdash_{\mathbb{P}}})VVで定義可能である.

  1. 1PGP:(V,P)-generic“俺はV[G]だ.全ての元はx˙VPに対してx˙Gの形に書けてるぜ.”\begin{aligned} \mathbb{1} \Vdash_{\mathbb{P}} \exists G \subseteq \mathbb{P}: (V, \mathbb{P})\text{-generic}\:\text{``俺は}V[G]\text{だ.全ての元は}\dot{x} \in V^{\mathbb{P}}\text{に対して}\dot{x}^G\text{の形に書けてるぜ.''}\end{aligned},

  2. 任意のpPp \in \mathbb{P}と論理式φ(x˙1,,x˙n)\varphi(\dot{x}_1, \dots, \dot{x}_n)に対し, qpq \leq pqφ(x˙1,,x˙n)q \Vdash \varphi(\dot{x}_1, \dots, \dot{x}_n)またはq¬φ(x˙1,,x˙n)q \Vdash \neg\varphi(\dot{x}_1, \dots, \dot{x}_n)となるものが取れる.

  3. GG(V,P)(V, \mathbb{P})-生成的でV[G]φV[G] \models \varphiならpGp \in Gpφp \Vdash \varphiを満たすものが取れるし,逆も然り.

かなりフワッとした書き方だが,たとえばC\mathbb{C}による強制法を考えると1CGV\mathbb{1}_{\mathbb{C}} \Vdash \text{“}\bigcup G \notin V\text{”}となっていて,V[G]V[G]ではVVにない実数が足されていることがわかる. Col(ω,ω1)\mathrm{Col}(\omega, \omega_1)の場合については結局ω1\omega_1が可算に潰れちゃってるんじゃないの?矛盾しない?と言う気がするかもしれないが,あくまでVVω1\omega_1が可算に潰されているだけであって,ω1V[G]\omega_1^{V[G]}は別の,もっと大きな順序数になっている.

このように捉えれば,逆にDC\mathrm{DC}は「どんな擬順序であっても,可算個くらいの条件を満たす近似であればそれはV[G]V[G]に行くまでもなくVVにある」という意味になるし,Zornの補題(=選択公理)は「Zorn的順序集合は自明すぎてつまらないからフルの生成フィルターがVVに存在する」という風に捉え直せる. つまり,種々の選出原理たちは「VVがどれだけV[G]V[G]に近いか」という事を主張する命題だったと思える. 現代数学における集合論は数学的概念を構成するための砂場なので,作りたいもの,近似出来そうなものが結構な頻度で手に届く位置にある事を保証してくれるのが選択公理をはじめとした選出原理だと言うことも出来る. だから選択公理は強力なのだ,という見方も出来るだろう.

さて,ZFC+MA\mathrm{ZFC}+\mathrm{MA}は無矛盾だろうか? 勿論,DC\mathrm{DC}からFA0(c.c.c.)\mathrm{FA}_{\aleph_0}(\text{c.c.c.})は出るので,もし20=12^{\aleph_0} = \aleph_1が成り立つなら,MA\mathrm{MA}は自明に成り立つ. なので,興味があるのはZFC+MA+¬CH\mathrm{ZFC}+\mathrm{MA}+ \neg \mathrm{CH}の無矛盾性だ. ここで証明はしないが,反復強制法という手法を用いることで,実はZF\mathrm{ZF}が無矛盾ならZFC+MA+¬CH\mathrm{ZFC}+\mathrm{MA}+\neg \mathrm{CH}も,MA\mathrm{MA}の否定を付け加えた体系も無矛盾である事が示せる:

次の体系は無矛盾性の意味で等価:

  1. ZF\mathrm{ZF},

  2. ZFC\mathrm{ZFC},

  3. ZFC+20が好きなだけ大きい+MA\mathrm{ZFC}+2^{\aleph_0}\text{が好きなだけ大きい} + \mathrm{MA},

  4. ZFC+20が好きなだけ大きい+¬MA\mathrm{ZFC}+2^{\aleph_0}\text{が好きなだけ大きい} + \neg \mathrm{MA}.

だから,日頃から「現代数学が矛盾するかも……」と思っているのでもない限り,MA\mathrm{MA}を仮定してたとしても「矛盾するかも……」と心配する必要はない,ということになる. それはそれとして「正しい」「妥当な」公理なのか,ということについては,仮定してみて面白いことが言えたらそれで良いし,否定してみて面白いことが言えたらそれでもまた良し,自分の面白そうな方を時々によって仮定する,というような態度で良いと思う.

応用として,ある命題がZFC\mathrm{ZFC}と無矛盾である事を示すのに,MA\mathrm{MA}からその命題を証明してみる,というのがある.

例えば,次の形のBaireの範疇定理の一般化が証明出来る:

XXをコンパクトHausdorff空間とし,更にXXの互いに交わらない開集合の族の濃度は高々可算であるとする. κ<20\kappa < 2^{\aleph_0}についてMAκ\mathrm{MA}_{\kappa}が成り立つなら,XXκ\kappa個の稠密開集合は交わりを持つ.

XXに関する後半の仮定は,空でない開集合全体の族OX\mathcal{O}_Xに包含関係で順序を入れた擬順序がc.c.c.を持つという条件と同値である事に注意する. UαXundefinedα<κ\left\langle\: U_\alpha \subseteq X \; \middle|\; \alpha < \kappa \:\right\rangleXXの稠密開集合の列とする. このとき,Dα:={OOXundefinedOˉUα}D_\alpha \mathrel{:=} \left\{\: O \in \mathcal{O}_X \;\middle|\; \bar{O} \subseteq U_\alpha \:\right\}OX\mathcal{O}_Xで稠密となる(ここでOˉ\bar{O}OOの位相的な閉包). 実際,適当に空でない開集合OOXO \in \mathcal{O}_Xを取れば,各UαU_\alphaの稠密開性よりO:=OUαO\emptyset \neq O' \mathrel{:=} O \cap U_\alpha \subseteq O. いまコンパクトHausdorff空間は正則空間なので,OO'を適宜取り直せばOˉUα\bar{O}' \subseteq U_\alphaであるとしてよく,よって各DαD_\alphaたちは稠密となる.

そこで,MAκ(OX)\mathrm{MA}_\kappa(\mathcal{O}_X)により各DαD_\alphaたちと交わるフィルターGOXG \subseteq \mathcal{O}_Xを取る. 特にGGは有限交叉性を持つ開集合の族なので,コンパクト性の特徴付けからGGは集積点xGˉx \in \bigcap \bar{G}を持つ. GDαG \cap D_\alpha \neq \emptysetより任意のα<κ\alpha < \kappaに対しxUαx \in U_\alphaが成り立つので,望み通りαUα\bigcap_\alpha U_\alpha \neq \emptysetを得る.

実は,MAκ\mathrm{MA}_\kappaは上の結論と同値である.

κ<20\kappa < 2^{\aleph_0}とする. もしMAκ\mathrm{MA}_{\kappa}が不成立なら,c.c.c.なコンパクトHausdorff空間とその稠密開集合のκ\kappa個の族で交わりを持たないものが存在する.

(P,)(\mathbb{P}, {\leq})およびDαP(α<κ)D_\alpha \subseteq \mathbb{P}\; (\alpha < \kappa)MAκ(P)\mathrm{MA}_\kappa(\mathbb{P})の反例となっているとする. このとき,P\mathbb{P}に下に閉じた集合を開集合とする位相を入れる. 即ちUPU \subseteq \mathbb{P}が開\iff任意のpU,qpp \in U, q \leq pについてqUq \in Uとする. 各α\alphaにつきUα:=Dα:={qPundefinedpDαqp}U_\alpha \mathrel{:=} {\downarrow}D_\alpha \mathrel{:=} \left\{\: q \in \mathbb{P} \;\middle|\; \exists p \in D_\alpha \: q \leq p \:\right\}と定めれば,開集合の定義から各UαU_\alphaは位相的な意味でも稠密開集合になっている. ここでもしqα<κUαq \in \bigcap_{\alpha < \kappa} U_\alphaとなるようなqqが取れれば,G:={pPundefinedqp}G \mathrel{:=} \left\{\: p \in \mathbb{P} \;\middle|\; q \leq p \:\right\}P\mathbb{P}のフィルターとなり,更に任意のDαD_\alphaと交わる. これはDαD_\alphaたちの取り方に反する.

よって,上のZFC+MA+¬CH\mathrm{ZFC}+\mathrm{MA}+\neg\mathrm{CH}およびZFC+¬MA+¬CH\mathrm{ZFC}+\neg\mathrm{MA}+\neg\mathrm{CH}の無矛盾性を認めれば,上の形のBaireの範疇定理はZFC\mathrm{ZFC}上独立であることがわかる. MA\mathrm{MA}からわかる他の独立命題についてはKunen  [3] を参照されたい.

もっと強い強制公理:PFA\mathrm{PFA}MM\mathrm{MM}

さて,上で導入されたMartinの公理MA\mathrm{MA}ZFC\mathrm{ZFC}からは独立だが,無矛盾性の強さはZFC\mathrm{ZFC}と同等であった.

それより更に強い強制公理として,適正強制公理 PFA\mathrm{PFA}Martin’s Maximum MM\mathrm{MM}がある:

  • 集合XXに対し,その可算無限部分集合の全体を[X]0:={AXundefinedA=0}[X]^{\aleph_0} \mathrel{:=} \left\{\: A \subseteq X \;\middle|\; {|A| = \aleph_0} \:\right\}と表す.

  • S[X]0\mathcal{S} \subseteq [X]^{\aleph_0}定常stationarydef\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} S\mathcal{S}はどんな関数f:<ωXXf: {}^{<\omega} {X} \to Xについても閉包点を持つ. 即ち f:<ωXXzSf[<ωz]z.\forall f: {}^{<\omega} {X} \to X \: \exists z \in \mathcal{S} \: f[{}^{<\omega} {z}] \subseteq z.

  • 強制概念P\mathbb{P}適正properdef\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} P\mathbb{P}は任意の[X]0[X]^{\aleph_0}の定常集合を保つ. 即ち, XS[X]01PS:[X]0で定常.\forall X \: \forall \mathcal{S} \subseteq [X]^{\aleph_0} \: \mathbb{1} \Vdash_{\mathbb{P}} \text{“}\mathcal{S}: [X]^{\aleph_0}\text{で定常}\text{”}.

  • 適正強制公理Proper Forcing Axiom, PFA\mathrm{PFA})とはFA1(proper)\mathrm{FA}_{\aleph_1}(\text{proper})の事.

  • Martin’s Maximum (MM\mathrm{MM})とはFA1([ω1]0の定常集合を保つ強制概念)\mathrm{FA}_{\aleph_1}([\omega_1]^{\aleph_0}\text{の定常集合を保つ強制概念}).

定義から明らかにPFA\mathrm{PFA}よりMM\mathrm{MM}の方が強い. 実は,MM\mathrm{MM}はMaximumという名の通りFA1()\mathrm{FA}_{\aleph_1}( - )の形で書ける強制公理の中では最も強い2ことが証明出来 [5, 6] ,こうした強制公理の中でも反映原理など色々面白い結果を齎す. つまり,P\mathbb{P}が一つでもω1\omega_1の定常集合を保存しないなら,それを使ってω1\omega_1個の稠密集合で対応する生成フィルターを持たないものが存在する,ということがZFC\mathrm{ZFC}で示せる. やることは上でFA1(Col(ω,ω1))\mathrm{FA}_{\mathrel{\|}_1}(\mathrm{Col}(\omega, \omega_1))が成り立たないことを証明するのと大差ないが,定常集合の組合せ論の議論が必要なのでここでは証明は省略しよう.

ではPFA\mathrm{PFA}MA\mathrm{MA}の強さはどうか? 実はc.c.c.を持つ擬順序は全ての[X]0[X]^{\aleph_0}の定常集合を保つことが示せ,従って適正であることがわかる. しかし,MA\mathrm{MA}では「連続体濃度未満の全てのκ\kappaについてFAκ(c.c.c.)\mathrm{FA}_\kappa(\text{c.c.c.})」という形になっており,PFA\mathrm{PFA}FA1(proper)\mathrm{FA}_{\aleph_1}(\text{proper})という形になっている. しかも上で述べたようにMA\mathrm{MA}の下で連続体濃度はいくらでも大きく出来るので,真に一般化になっているのかはパッと見た限りではわからない. しかし,TodorčevićはPFA\mathrm{PFA}から20=22^{\aleph_0} = \aleph_2が導かれる事を示した:

PFA20=2\mathrm{PFA} \implies 2^{\aleph_0} = \aleph_2.

よってPFA\mathrm{PFA}MA\mathrm{MA}の真の一般化になっているし,MA\mathrm{MA}が決定出来なかった連続体の濃度まで決めてくれることがわかる.

こうしたPFA\mathrm{PFA}MM\mathrm{MM}の無矛盾性は,ZFC\mathrm{ZFC}よりも真に強いことがわかっている.

MM\mathrm{MM}およびPFA\mathrm{PFA}の無矛盾性の強さは「ZFC\mathrm{ZFC}+Woodin基数の存在」と「ZFC\mathrm{ZFC}+超コンパクト基数」の間のどこかにある.

このWoodin基数や超コンパクト基数というのがどのくらい強いのか?というと,「ZFC\mathrm{ZFC}よりは遥かに強いが,現代集合論者は縦横無尽に使っていて,これらが矛盾する事がわかったらかなり驚く」というくらいの強さである.

だいたい無矛盾性の強さがどういう感じに並ぶのか,というのが下図3である(但しBP\mathrm{BP}は「任意の実数の集合がBaireの性質を持つ」,LM\mathrm{LM}は「任意の実数の集合がLebesgue可測」という,選択公理とは矛盾する公理).

Diagram

上図で\simは「同値」という意味ではなく「無矛盾性が同じ」ということである. つまり,Woodinなり超コンパクトなりがあるからといって,MM\mathrm{MM}PFA\mathrm{PFA}が成り立つ訳ではない.

上で述べたようにPFA\mathrm{PFA}MM\mathrm{MM}は連続体の濃度を決定してくれるが,それ以外にも組合せ論的な命題の真偽も決めてくれる. 筆者は詳しくないが,作用素環の同型に関する独立命題についても真偽を決めてくれるらしい.

連続体の濃度がZFC\mathrm{ZFC}から独立なのは有名だが,Gödelは自然な巨大基数公理の階層を調べていけば,その何処かで連続体濃度を決定できるのではないかと提唱した. これをGödelのプログラムというが,かなり早い段階で単に巨大基数の存在だけからは連続体を決定出来ない,ということは明らかにされた. しかし,巨大基数公理の帰結ではなくとも,それと密接に結び付くPFA\mathrm{PFA}MM\mathrm{MM}といった強制公理によって連続体濃度を決定できる. 強制公理は強制拡大と現在の宇宙が「近い」という意味でも自然だし,あるいは本稿で見たようにそれが選択公理の一般化になっている,という意味でも自然な主張である. その意味で,強制公理は拡張されたGödelのプログラムの一部である,と見ることが出来るのだ4

参考文献

  • [1]@alg_d, “選択公理 | 壱大整域.” [Online]. Available: http://alg-d.com/math/ac/.
  • [2]R. M. Solovay, “A model of set theory in which every set of reals is Lebesgue measurable,” The Annals of Mathematics, vol. 92, no. 1, pp. 1–56, July 1970.
  • [3]K. Kunen, Set Theory, vol. 34. College Publications, 2011.
  • [4]M. Viale, “Category forcings, MM+++MM^{+++}, and generic absoluteness for the theory of strong forcing axioms,” 29-Jul-2015. [Online]. Available: http://arxiv.org/abs/1305.2058. [Accessed: 17-Feb-2017].
  • [5]M. Foreman, M. Magidor, and S. Shelah, “Martin’s maximum, saturated ideals and nonregular ultrafilters. Part I,” Annals of Mathematics, vol. 127, no. 1, pp. 1–47, Jan. 1988.
  • [6]M. Foreman, M. Magidor, and S. Shelah, “Martin’s maximum, saturated ideals and nonregular ultrafilters. Part II,” Annals of Mathematics, vol. 127, no. 3, pp. 521–545, May 1988.
  • [7]依岡輝幸, “強制公理とΩ-論理,” 科学基礎論研究, vol. 36, no. 2, pp. 45–52, 2009.
  • [8]T. Jech, Set Theory, 2nd ed. Springer-Verlag Berlin Heidelberg, 1997.
  • [9]E. Lauri, “Weak Choice Principles and Forcing Axioms,” 2016. [Online]. Available: https://lsa.umich.edu/content/dam/math-assets/math-document/reu-documents/Lauri.Elizabeth.pdf.

  1. ところで,Solovay  [2] は「(ppに関する連続性を仮定しない)可分Banach空間に対するのHahn–Banachは一瞬でDC\mathrm{DC}から出て来るよ」って言ってるんですが何か上手くいかない気がするので,出来たよという人は御一報下さい.

  2. 近年では,違う定式化を採用することでMM\mathrm{MM}を更に強化したMM+++\mathrm{MM}^{+++} [4] などという公理も研究されている.

  3. 巨大基数がこれだけしかない,という訳ではなくて,間の歯抜けになっていたりする部分にも幾つも変種がある.

  4. 強制公理だけが連続体問題の決着への唯一の解と考えられている訳ではなく,例えばWoodinによる強制公理とも密接に関連した強制法的絶対性の論理を構築することで連続体濃度を決定しようというΩ\Omega-論理という試みもある.詳細は依岡 [7] などを参照.


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