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集合論の様々なモデルを構成する方法として強制法があります.強制法の流儀には複数ありますが,その中の一つにZFCの可算推移的モデル(c.t.m.)を取る方法があり,Kunen [1]でもこの方法が採用されています.
実はこの「ZFCの可算推移的モデルの存在」は「ZF(C)の無矛盾性(=ZF(C)の集合モデルの存在)」よりも強い仮定です(つまりCon(ZF)↛∃c.t.m.).このことはKunen [1]や新井
[2]で言及されていますが,具体的に何故なのかは触れられていません.
以下では,この辺りの議論について少し詳しく書いてみます.
典型的な誤解とそれが誤解である手短な説明
「Con(ZF)を仮定しているのだから集合モデルが存在するので,Löwenheim-Skolemの定理で可算な初等部分構造を取ってMostwski崩壊で(M,∈)の形にすればよい」というのがよくある誤解です.
具体的にどの部分が誤解なのかというと,「Mostwski崩壊で」の所が間違っています.Mostwski崩壊の主張をよく思い出してみましょう:
(M,E)を外延的かつ整礎的な構造とする.このとき(M,E)≅(S,∈)となる推移的集合Sが存在する.
Con(ZF)から存在する可算モデルを(M,E)としましょう.=は論理記号だと思ってしまえば,外延性の公理から(M,E)が外延的であることは良いでしょう.基礎の公理(正則性の公理)が成り立つからEはM上整礎なので,条件が成立して……と進めたくなりますが,実はここが間違っています.基礎の公理が(M,E)で成り立つ,ということは次の論理式が成り立つということです:
∀A∈M[∃x∈M(xEA)→∃xEA∀yEA(yEx)]
対して,(M,E)が整礎構造である,というのは, ∀A⊆M[∃x∈M(x∈A)→∃x∈A∀y∈A(yEx)]
ということでした.これを見比べてみれば,Mostwski崩壊定理が求めているのはいわば「(M,E)が∈-整礎である」という条件であるのに対し,「(M,E)が基礎の公理を満たす」というのは「(M,E)がE-整礎である」ことを主張していることになります.したがって,完全性定理とLöwenheim-Skolemの定理により得られた可算モデルにMostwski崩壊定理を適用することは出来ない訳です.
真に強いことの証明
以上の議論により,Mostwski崩壊による常套手段をZFC全体のモデルに適用してc.t.m.を得ることは出来ないということがわかりました.
しかし,それでも他の方法で取れる可能性はあるのではないか?と云う疑問が湧いてきます.そこで,以下では,c.t.m.の存在がCon(ZF)よりも強いことを示します.
以下の議論については,くるるさん(@kururu_goedel)から本質的な示唆を頂きました.ありがとうございます.
そこで,Con(ZFC)→∃c.t.m.を仮定して矛盾を導きましょう.そもそもZFC+Con(ZFC)が矛盾する場合はつぶれてしまって考える意味がないので,Con(ZFC+Con(ZFC))としましょう.するとGödelの第二不完全性定理および完全性定理から,M⊨ZFC+Con(ZFC)+¬Con(ZFC+Con(ZFC))を満たすモデルMが存在します.今,Con(ZFC)→∃c.t.m.を仮定しているので,Mの中でZFCの可算推移的モデルN⊆Mが取れます.ここで,「可算」「推移的」「⊆」はいずれもMをユニヴァースと見た時のものであることに注意しましょう.とはいえ,これ以後Mの外に出ることはないので,Mをユニヴァースだと思ってしまって,以下∈はMにおけるϵ-関係であるとして議論を進めることにします.
すると,N⊨ZFCかつ¬Con(ZFC+Con(ZFC))よりN⊨¬Con(ZFC)となります.すると,ZFCの有限個の公理φ1,…,φnがあってそこから矛盾が出ます:
N⊨¬Con(φ1∧⋯∧φn)
この時,「論理式」「有限」「ZFCの公理」「矛盾」の概念はそれぞれ推移的モデルについて絶対なので,外側のMでも同じことが成立します:
M⊨¬Con(φ1∧⋯∧φn)
しかし,他方でM⊨Con(ZFC)でしたから,当然M⊨Con(φ1∧⋯∧φn)でなくてはなりません.これは矛盾です.
参考文献
[1]
K.
Kunen, Set theory, vol. 34. College Publications, 2011.
[2]
新井敏康, 数学基礎論. 岩波書店,
2011.
[3]
江田勝哉, 数理論理学
──使い方と考え方:超準解析の入口まで. 内田老鶴圃, 2010.