概要

@Awodey の演習問題を解いていたところ,選択公理と同値な 命題を見付けたので証明を試みました.手許の文献でこの同値性に言及している ものはなかったと思います.

準備

以下では,圏 \(\mathbf{Pos}\) とは,半順序集合(partially ordered set,以下poset)を 対象,その間の単調写像を射とした圏であるとします. 恒等写像は明らかに単調ですし,単調写像と単調写像の合成が再び単調となるこ とからこれは実際に圏となります.

\({\bf C}\) の対象 \(P\)射影的(projective)であるとは,任意の 対象 \(E, X \in {\bf C}\) と射 \(f: P \to X\) およびエピ射 \(e: E \twoheadrightarrow X\)が与えら れたとき,次の図式を可換にする(一意とは限らない)射 \(\hat{f}: P \to E\) が必ず存在することである.

\[ \begin{xy} \xymatrix{ & E \ar @{->>} [d]^{e} \\ P \ar @{.>} [ur]^{\hat{f}} \ar [r] _{f} & X } \end{xy} \]

射影的対象の概念を用いて,選択公理を言い換えたものが以下です.

以下の命題は選択公理と同値.

\(\mathbf{Sets}\) の任意の対象は射影的である.

@alg-d さんのサイト [@alg-d]を参照.

\(\mathbf{Pos}\) のエピ射は全射単調写像と完全に一致する.

\(e\) がエピ射でないとすると,\(he = h'e\) かつ \(h \neq h'\) なる射が存在し, \(e\) の定義域の外に \(h(x) \neq h'(x)\) なる \(x\) が存在することになり全射となら ない.また,エピ射かつ全射でない単調写像 \(e\) が存在したとすると,\(e\) の定義域の 外から一点を取り,その行き先を上手く違えた \(h, h'\) を取ってやることで矛 盾を導くことが出来る.

また,以下では次の事実を用いる.

通常の集合 \(S\) は,離散poset,即ち,各元 \(x \in S\) についての反射律のみ を仮定して得られる poset と見做すことで \(\mathbf{Pos}\) の対象と見做すことが出来る.

\(\mathbf{Pos}\)\(\mathbf{Sets}\) の関係

以下の命題は選択公理と同値.

集合を離散 poset と見做すことによって, \(\mathbf{Sets}\)\(\mathbf{Pos}\) の射影的対象 からなる充満部分圏となる.

  1. 集合の間の写像は,対応する離散 poset の間の単調写像と見做すこと が出来るので,結局は \(\mathbf{Pos}\) の射影的対象と離散posetが一致すること を示せばよい.

    まず,任意の集合 \(S\)\(\mathbf{Pos}\) で射影的であることを示そう.\(S\) を集合, 即ち離散poset,\(E, X\) を任意のposetとし,単調写像 \(f: S \to X\) およ びエピ射 \(e: E \twoheadrightarrow X\) が与えらえているとする. 今,poset \(A\) に対応する台集合を \(|A|\),単調写像 \(f\) の台写像を \(|f|\) で表わすことにすると,定理 2 より \(\mathbf{Pos}\) での エピ射は全射でもあることに注意すると,\(\mathbf{Sets}\) で次の図式を可換に する射 \(\hat{f}: |S| \to |E|\) が存在する.

    \[ \begin{xy} \xymatrix{ & \left|E \right| \ar @{->>} [d]^{e} \\ \left|P\right| \ar @{.>} [ur]^{\hat{\left|f\right|}} \ar [r] _{\left|f\right|} & \left|X\right| } \end{xy} \]

    あとは,\(|\hat{f}|\) が単調写像となっていることを示せばよい.\(S\) は 離散posetより,成立する順序関係は反射律のみであるので,特に \(|\hat{f}|(a) \leq |\hat{f}|(a)\) が云えればよい.しかるに,\(E\) は posetであったので反射律が成立し,特に \(|\hat{f}|(a) \leq |\hat{f}|(a)\) が常に成立している.よって \(|\hat{f}|\) は単調写像. よって状況を \(\mathbf{Pos}\) に引き戻して

    \[ \begin{xy} \xymatrix{ & E \ar @{->>} [d]^{e} \\ P \ar @{.>} [ur]^{\hat{f}} \ar [r] _{f} & X } \end{xy} \]

    が可換となる.よって任意の集合は \(\mathbf{Pos}\) で射影的である.

    逆に,\(P \in \mathbf{Pos}\) を射影的対象とする.\(P\) の元からなる離散posetを \(\mathrm{dis}(P)\) と書くことにする.写像 \(i:\mathrm{dis}(P) \twoheadrightarrow P\)\(i(a) = a\) で定めると,これはは明らかに全射単調写 像であり,従って \(\mathbf{Pos}\) のエピ射である.よって,以下を可換にするよ うな \(\hat{1}_P: P \to \mathrm{dis}(P)\) が存在する.

    \[ \begin{xy} \xymatrix{ & \mathrm{dis}(P) \ar @{->>} [d]^{i} \\ P \ar @{.>} [ur]^{\hat{1_P}} \ar [r] _{1_P} & P } \end{xy} \]

    すなわち,\(i \circ \hat{1}_P = 1_P\) である.特に \(|P| = |\mathrm{dis}(P)|\) であり,定義から \(|i| = 1_{|P|} = 1_{|\mathrm{dis}(P)|}\) となる.すると,

    \[\begin{aligned} | \hat{1}_P \circ i | &= |\hat{1}_P| \circ |i| = |\hat{1}_P| \circ 1_{|P|} = |\hat{1}_P|\\ &= 1_{|P|} \circ |\hat{1}_P| = |i| \circ |\hat{1}_P| = |i \circ \hat{1}_P| \\ &= |1_P| = 1_{|P|} = 1_{|\mathrm{dis}(P)|} = |1_{\mathrm{dis}(P)}|\\ \therefore \hat{1}_P \circ i &= 1_{\mathrm{dis}(P)}\;\;\text{in}\ \mathbf{Pos}\end{aligned}\]

    よって,\(\hat{1}_P\)\(\mathbf{Pos}\) での同型射となる.今,\(\mathrm{dis}(P)\) は離散 poset だったので,それと同型となる \(P\) もまた離散posetとなる.

    以上より示された.

  2. \(\mathbf{Pos}\) の射影的対象と離散posetが一致すると仮定する.今,Factより 任意の集合 \(A\) は離散posetと同一視出来る.すると,A は \(\mathbf{Pos}\) で射影 的であり.他の集合 \(E, X\)\(\mathbf{Pos}\) の対象と見做せ,その間の全射 \(e: E \to X\) と写像 \(f: A \to X\) が存在すれば,それらはposetとして の \(A, E, X\) 間の単調写像と同一視出来,とくに \(e\)\(\mathbf{Pos}\) でエピ射と なる.すると,それらに対して下の図式を可換にする \(\hat{f}:A\to E\) が存在する.

    \[ \begin{xy} \xymatrix{ & E \ar @{->>} [d]^{e} \\ A \ar @{.>} [ur]^{\hat{f}} \ar [r] _{f} & X } \end{xy} \]

    再び \(\mathbf{Sets}\) に戻って考えれば,これは任意の集合は射影的であると云 うことであり,定理 1 より選択公理が従う.

参考文献