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強制法の考え方(おはなし)

ZFC+¬CH\mathrm{ZFC} + \neg \mathrm{CH} のモデル NN を作りたい.直観的には既にある宇宙の外側から十分沢山 ω\omega の部分集合を持ってきて付け加えたいのだが,そんな事は出来ないので,ZFC\mathrm{ZFC} の可算推移的モデル (c.t.m.) MM から始めて ZFC+¬CH\mathrm{ZFC}+\neg \mathrm{CH} のモデル NMN \supsetneq M を作りたい. 具体的には,MA を使う時と同じように,poset PM\mathbb{P} \in M と十分多くの稠密集合と交わるようなフィルター GG をとって,そこから望ましい性質を持ったオブジェクトを作る.GG やその結果の構築物は MM に属するとは限らないので,一定の性質を保ったまま MM の元と GG を共に含むように MMM[G]M[G] に拡張するということになる.

ZFC\mathrm{ZFC} の可算推移的モデルは,到達不能基数が存在すれば取ることが出来るが,ZFC\mathrm{ZFC} からその存在を証明出来ない.なので,以下で示す Con(ZFC)Con(ZFC+¬CH)\mathop{\mathrm{Con}}(\mathrm{ZFC}) \rightarrow \mathop{\mathrm{Con}}(\mathrm{ZFC}+\neg \mathrm{CH}) はひとまず ZFC+IC\mathrm{ZFC}+IC の定理ということになる.実際には,公理系が無矛盾であるというのはその任意の有限部分集合が無矛盾であるという事だから,ZFC\mathrm{ZFC} の公理からなる有限集合 ΛZFC\Lambda \Subset \mathrm{ZFC} を任意に取ってきて,Λ+CH\Lambda + \mathrm{CH} がモデルを持つことが示せればよい.反映定理より Λ\Lambda の c.t.m. は ZFC\mathrm{ZFC} の内部で取ることが出来るので,以下の議論で考える c.t.m. を Λ\Lambda に関する c.t.m. だと思えば,ZFC\mathrm{ZFC} の内部で ZFC+¬CH\mathrm{ZFC}+\neg \mathrm{CH} の相対無矛盾性を示せる.他にももう一つ議論を正当化する方法があるらしいが,それは第 5 節でやることになる.

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(P,,1)(\mathbb{P}, \leq , \mathbb{1}) は forcing poset」「DPD \subseteq \mathbb{P} は稠密」は ZFP\mathrm{ZF}-P の推移的モデルについて絶対.

試しに forcing poset の公理を書き下してみる:

  1. 1P\mathbb{1} \in \mathbb{P}

  2. (pP)p1(\forall p \in \mathbb{P})\, p \leq \mathbb{1}

  3. (pP)pp(\forall p \in \mathbb{P})\, p \leq p

  4. (p,q,rP)pqqrpr(\forall p, q, r \in \mathbb{P})\, p \leq q \wedge q \leq r \rightarrow p \leq r

これらは明らかに ZFP\mathrm{ZF}-P の下で Δ0\Delta_0- 論理式で書ける.最初なので詳しく書けば,xyx \leq yZFP\mathrm{ZF}-P の下で Δ0\Delta_0 論理式 p[p=x,y]\exists p \in \mathord{\leq}\,[p = \langle x, y \rangle] と同値である.上式に現れる量化子はすべて有界なので,これらも全て Δ0\Delta_0- 論理式となり,従って ZFP\mathrm{ZF}-P の推移的モデルに対し絶対である.稠密性についても同様.

1M\mathbb{1} \in MMM の推移性からすぐに出て来るが,\leq は入るとは限らないので M\mathord{\leq} \in M を条件に入れておく.しかし,大抵の場合 M\mathord{\leq} \in M も絶対性から従う.

強制法では適切な poset PM\mathbb{P} \in M のフィルター GG を使って ¬CH\neg \mathrm{CH} を破ったりするような対象を作る.MAMA の時は適切な個数の稠密集合と交わるフィルターを考えたが,強制法の場合は次がその条件に対応する:

P\mathbb{P} を forcing poset とする.GPG \subseteq \mathbb{P}MMP\mathbb{P}-ジェネリックdefG\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} GP\mathbb{P} 上のフィルターで DG[DMD:Pで稠密DG]\forall D \subseteq G\, [D \in M \wedge D : \mathbb{P} \text{で稠密} \longrightarrow D \cap G \neq \emptyset]

MM は可算なので,MM に属する稠密集合を数えあげることが出来,補題 III.3.14 よりジェネリックフィルターは必ず存在する:

M:ZFPM: \mathrm{ZF} - P の c.t.m.,PM\mathbb{P} \in M:forcing poset

pPGP[pGGMP-ジェネリック]\Longrightarrow \forall p \in \mathbb{P} \exists G \subseteq \mathbb{P}\; [p \in G \wedge G\text{は}M\text{上}\mathbb{P}\text{-ジェネリック}]

MM に入っている稠密集合 DD の列挙自体が MM に属するとは限らず,特に GG は大抵の場合 MM の元ではない:

PM\mathbb{P} \in M がアトムを持たず,GGMMP\mathbb{P}- ジェネリック GM\Longrightarrow G \notin M

P\mathbb{P} はアトムを持たないので D=PGD = \mathbb{P} \setminus G は稠密.GMG \in M とすると DMD \in M となり,GDG \cap D \neq \emptyset に矛盾.

P\mathbb{P} がアトム rr を持つなら,G={q:q̸r}G = \left\{ q : q \not\perp r \right\} はジェネリックフィルターとなり,更に MM に属するが,強制法や MA への応用上現れる poset の殆んどはアトムを持たないものである.

以下では,MM の元と GG を使い,「単純な集合論的過程」によって新たなモデル M[G]M[G] を構成していく. まず,M[G]M[G] の各元について,その「作り方」を記した名前を割り当てるところから始める:

τ\tauP\mathbb{P}-name defτ\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \tau 二項関係であり σ,pτ[σ は P-namepP]\forall \langle \sigma, p \rangle \in \tau \, [\sigma \text{ は } \mathbb{P}\text{-name} \wedge p \in \mathbb{P}] を満たす.

この時,VP:={P-name全体のクラス}V^{\mathbb{P}} \mathrel{:=} \left\{ \mathbb{P}\text{-name全体のクラス} \right\} と置く.

P\mathbb{P}-name の概念は整礎帰納法により定義されている.より厳密には,集合的整礎関係 xRydefxtrcl(y)x R y \xLeftrightarrow{\mathrm{def}} x \in \mathrm{trcl}(y) に関する帰納法により,VPV^\mathbb{P} の「特性関数」F:V2F: V \rightarrow 2 を次のように定義している: F(τ)={1(τ:Relation,σ,pτ[F(σ)=1pP])0(otherwise)F(\tau) = \begin{cases} 1 & (\tau : \text{Relation}, \forall \langle \sigma, p \rangle \in \tau \, [F(\sigma) = 1 \wedge p \in \mathbb{P}])\\ 0 & (\text{otherwise}) \end{cases}τ\tau が関係であること」は ZFP\mathrm{ZF}-P の推移的モデルについて絶対であり,帰納条件の部分も Δ0\Delta_0 論理式なので絶対.よって「xxP\mathbb{P}-name である」も ZFP\mathrm{ZF}-P の推移的モデルについて絶対的である.

MP:={τMundefined(τP-name)M}=MVP\begin{aligned} M^\mathbb{P} \mathrel{:=} \left\{\: \tau \in M \;\middle|\; (\tau \text{は} \mathbb{P}\text{-name})^M \:\right\} = M \cap V^\mathbb{P}\end{aligned}

最後のイコールは絶対性から従う.

整礎帰納法による P\mathbb{P}-name の構成は,基礎の公理を使って集合の累積的階層を作っていく操作と似ている.余分な「pp」は,各フィルター GG を固定した際に,実際に元となるかどうかの「条件」として振る舞う:

τ:P\tau: \mathbb{P}-name,GPG \subseteq \mathbb{P} とする.この時 τG:=val(τ,G):={val(σ,G):pG,[σ,pτ]}\tau_G \mathrel{:=} \mathrm{val}(\tau, G) \mathrel{:=} \left\{ \mathrm{val}(\sigma, G) : \exists p \in G,\,[\langle \sigma, p \rangle \in \tau] \right\} により τG\tau_G を帰納的に定める.この時,M[G]M[G] を次で定義する: M[G]:={τG:τMP}M[G] \mathrel{:=} \left\{ \tau_G : \tau \in M^\mathbb{P} \right\}

M[G]M[G]MM の各元と GG を含むようにしたいので,それらを指示するような MM に属する P\mathbb{P}-name がなくてはいけない.まず,MM の元を指す名前は,次のようにすれば作れる:

P,,1\langle \mathbb{P}, \mathord{\leq}, \mathbb{1} \rangle:forcing poset,xx:集合とする時,xˇ\check{x} (xx-check) を次で定める: xˇ:={yˇ,1:yx}\check{x} \mathrel{:=} \left\{ \langle \check{y}, \mathbb{1} \rangle : y \in x \right\}

1\mathbb{1} はどんなフィルターにも含まれており,「無条件」を表すものだと思えば,この定義は自然なものである.実際,次が云える:

(i) (xM)[xˇMPval(xˇ,G)=x](\forall x \in M)\, \left[ \check{x} \in M^\mathbb{P} \wedge \mathrm{val}(\check{x}, G) = x\right] (ii) M[G]MM[G] \supseteq M

(ii) は (i) より直ちに従う.

(i) に関して.xMx \in M とする.xˇMP\check{x} \in M^\mathbb{P} となることは,「P\mathbb{P}-name」や直積,対などが ZFP\mathrm{ZF}-P の推移的モデルについて絶対であることから直ちにわかる.後半についても,帰納法により一瞬で示せる.

先程,大抵の場合 GMG \notin M であることを述べたが,GM[G]G \in M[G] であるためには,GG を指す名前は MM に含まれていなければならない.実際,次のようにして簡単に作ることが出来る:

forcing poset P\mathbb{P} に対し,Γ:={pˇ,p:pP}\Gamma \mathrel{:=} \left\{ \langle \check{p}, p \rangle : p \in \mathbb{P} \right\} と定める.

Γ\GammaP\mathbb{P}-name であり,ΓG=G\Gamma_G = G となる.特に,GM[G]G \in M[G] である.

xˇ\check{x}Γ\Gamma も特定ののを指すように作られているのは同じだが,それぞれ写像 GτGG \mapsto \tau_G と見做すと,xˇ\check{x} は定数写像 GxG \mapsto x に対応するのに対し,Γ\Gamma は恒等写像 GGG \mapsto G になっているのが異なる.

こうして作った M[G]M[G]ZFC\mathrm{ZFC} の十分な範囲を満たすことを示したい.ここまでの準備で次を示せる:

M[G]M[G] は推移的で,外延性,基礎,対,和の公理のモデルとなる.

baM[G]b \in a \in M[G] とする.この時,a=τGa = \tau_G となるような τMP\tau \in M^\mathbb{P} が存在する.この時,ba={σG:pGσ,pτ}b \in a = \left\{ \sigma_G : \exists p \in G\, \langle \sigma, p \rangle \in \tau \right\} となるから,b=σGb = \sigma_G となるような P\mathbb{P}-name σMP\sigma\in M^\mathbb{P} が存在する.よって bM[G]b \in M[G] となるので,M[G]M[G] は推移的である. 基礎の公理は ϵ\epsilon- モデルであることから成立し,M[G]M[G] が推移的であることから外延性の公理も成立.

対の公理を示す.a,bM[G]a, b \in M[G] とし,τG=a,σG=b(σ,τMP)\tau_G = a, \sigma_G = b\;(\sigma, \tau \in M^\mathbb{P}) とおく.この時,π={σ,1,τ,1}\pi = \left\{ \langle \sigma, \mathbb{1} \rangle, \langle \tau, \mathbb{1} \rangle \right\} とおけば,πG={σG,τG}={a,b}\pi_G = \left\{ \sigma_G, \tau_G \right\} = \left\{ a, b \right\}.対の絶対性より明らかに πMP\pi \in M^\mathbb{P} であるので,{a,b}M[G]\left\{ a, b \right\} \in M[G] となる.

最後に和の公理を示す.a=τG(τMP)a = \tau_G\; (\tau \in M^\mathbb{P}) とし, π:={θ,p:σ,qτrP[θ,rσprpq]},b:=πG\pi \mathrel{:=} \left\{ \langle \theta, p \rangle : \exists \langle \sigma, q \rangle \in \tau\, \exists r \in \mathbb{P}\, \left[\langle \theta, r \rangle \in \sigma \wedge p \leq r \wedge p \leq q \right] \right\}, \quad b \mathrel{:=} \pi_G とおく.絶対性より明らかに πMP\pi \in M^\mathbb{P} なので,bM[G]b \in M[G] である.\bigcupZFP\mathrm{ZF}-P の推移的モデルに対して絶対なので,b=ab = \bigcup a を示せばよい.まず cac \in a を取り,cbc \subseteq b を示す.この時,ある σMP,qG\sigma \in M^\mathbb{P}, q \in G があって,σ,qτ\langle \sigma, q \rangle \in \tau かつ σG=c\sigma_G = c となる.ここで更に dcd \in c を取れば,θ,rσ\langle \theta, r \rangle \in \sigmaθG=d,rG\theta_G = d, r \in G を満たすものが取れる.すると,GG がフィルターであることから,prpqp \leq r \wedge p \leq q を満たす pGp \in G を取ることが出来る.この時定義より θ,pπ\langle \theta, p \rangle \in \pi となるので,dπG=bd \in \pi_G = b となる.よってこの方向は OK.

逆を示す.dbd \in b を取れば,θ,pπ\langle \theta, p \rangle \in \piθG=d,pG\theta_G = d, p \in G となるものが存在している.更に π\pi の定義から,θ,rσ\langle \theta, r \rangle \in \sigma かつ pq,rp \leq q, r を満たすような σ,qτ,pP\langle \sigma, q \rangle \in \tau, p \in \mathbb{P} が取れる.すると,GG がフィルターであることと pGp \in G に注意すれば q,rGq, r \in G となる.そこで c=σGc = \sigma_G とおけば,σ,qτ,qG\langle \sigma, q \rangle \in \tau, q \in G より c=σGτG=ac = \sigma_G \in \tau_G = a.同様にして d=θGσG=cd = \theta_G \in \sigma_G = c が云え,dcad \in c \in a となる.よって bab \subseteq \bigcup a.よって示された.

参考文献

[1] K. Kunen, Set Theory, vol. 34. College Publications, 2011.

[2] 江田勝哉, 数理論理学 ──使い方と考え方:超準解析の入口まで. 内田老鶴圃, 2010.

[3] 新井敏康, 数学基礎論. 岩波書店, 2011.