概要

集合論における無矛盾性証明で用いられる主要な手法である強制法と,密接に関連するBoole値モデルの手法について,本稿では幾らか証明を省略しつつ概略を採り上げます.また,Hamkinsら  [1]の説明に基づいて,超冪とBoole値モデルの関係についても簡単に解説します.

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強制法の基本的な考え方とBoole値モデル

直観的には,現在の集合の宇宙VVに新しい元GGを付加した,新たな宇宙V[G]V[G]を得たい,というのが強制法のモチヴェーションです. しかし,そうはいっても集合の全体は既にVVで確定しているので,「新しい元」というのはそのままでは意味を成しません.

そこで,強制法では集合概念を拡張することを考えます. どういう事でしょうか? まず,一般の集合xVx \in Vは,特性関数と同一視することで,部分関数x:V2x: V \dashrightarrow 2と見做すことが出来ます. 22というのは「各元がxxに属すか?」という真偽値ですから,この真偽値を一般のBoole代数B\mathbb{B}に一般化しようというというのが強制法の基本的なアイデアです.

このように,所属関係の真偽値を完備Boole代数B\mathbb{B}に一般化した集合のことを,B\mathbb{B}-nameと呼びます.

  • (B,,+,,,,,0,1)\left(\mathbb{B}, \leq, +, \cdot, -, \sum, \prod, \mathbb{0}, \mathbb{1}\right)完備Boole代数cBadef\xLeftrightarrow{\mathrm{def}}

    1. \leqB\mathbb{B}上の半順序であり,0\mathbb{0}, 1\mathbb{1}はそれぞれ\leqに関する最小・最大元.

    2. ,:P(B)B\sum, \prod: \mathop{\mathcal{P}}(\mathbb{B}) \to \mathbb{B}はそれぞれB\mathbb{B}の部分集合の上限・下限を与える. 特にx+y:={x,y}x + y \mathrel{:=} \sum \left\{ x, y \right\}, xy:={x,y}x \cdot y \mathrel{:=} \prod \left\{ x, y \right\}と書く.

    3. xBx \in \mathbb{B}に対し,x-xxx補元と呼ばれ,x(x)=0x \cdot (-x) = 0およびx+(x)=1x + (-x) = \mathbb{1}を満たす.

  • cBa B\mathbb{B}に対して,B\mathbb{B}-nameの全体VBV^{\mathbb{B}}を次で定める: V0B:=,Vα+1B:=P(VαB×B),VγB:=β<γVβB  (γ:limit)VB:=αOnVαB.\begin{gathered} V^{\mathbb{B}}_0 \mathrel{:=} \emptyset, \qquad V^{\mathbb{B}}_{\alpha + 1} \mathrel{:=} \mathop{\mathcal{P}}(V^{\mathbb{B}}_\alpha \times \mathbb{B}),\qquad V^{\mathbb{B}}_\gamma \mathrel{:=} \bigcup_{\beta < \gamma} V^{\mathbb{B}}_\beta \;(\gamma: \text{limit})\\ V^{\mathbb{B}} \mathrel{:=} \bigcup_{\alpha \in \mathord{\mathrm{On}}} V^{\mathbb{B}}_\alpha. \end{gathered} VBV^{\mathbb{B}}の元をギリシア文字σ,τ,ϑ,\sigma, \tau, \vartheta, \dotsやドット付き文字x˙,y˙,\dot{x}, \dot{y}, \dotsなどで表す.

上では「部分関数」といいましたが,あとでcBa以外に一般化する際には,こっちの方が楽なので,ちょっと違う定義にしてあります. σVB\sigma \in V^{\mathbb{B}}に対応する部分関数を仮にσˉ\bar{\sigma}と書くことにすれば, σˉ(τˉ):={bB  |  τ,bσ}\bar{\sigma}(\bar{\tau}) \mathrel{:=} \sum \left\{\: b \in \mathbb{B} \;\middle|\; \left\langle \tau, b \right\rangle \in \sigma \:\right\} によって「部分関数」を復元出来ます.

さて,当初の「宇宙を広げたい」という欲求からすれば,こうして創ったVBV^{\mathbb{B}}の中にVVが自然に埋め込まれてほしいです. それを可能にするのが,次の  ˇ\check{\;}-作用素です.

xVx \in Vに対し,xˇVB\check{x} \in V^{\mathbb{B}}を整礎帰納法により次で定める: xˇ:={yˇ,1  |  yx}.\check{x} \mathrel{:=} \left\{\: \left\langle \check{y}, \mathbb{1} \right\rangle \;\middle|\; y \in x \:\right\}.

さて,このようにして一般化された集合の宇宙VBV^{\mathbb{B}}が定義出来ました. このVBV^{\mathbb{B}}を集合論のモデルとして解釈したい訳ですが,所属関係の真偽値をB\mathbb{B}-値にしたので,モデルの解釈もB\mathbb{B}-値で与える必要があります.

  • 強制法の言語F ⁣L\mathord{\mathcal{F\!L}}とは,二項述語記号\mathord{\in}および単項述語記号Vˇ\check{V}を持つ言語である. また,xVˇx \in \check{V}Vˇ(x)\check{V}(x)の略記法とする.

  • 原子論理式φ[x]F ⁣L\varphi[\vec{x}] \in \mathord{\mathcal{F\!L}}およびσVB\vec{\sigma} \in V^{\mathbb{B}}真偽値φ[σ]B\left\| \varphi[\vec{\sigma}] \right\|_{\,\mathbb{B}}を次のようなVBV^{\mathbb{B}}-ランクに関する帰納法で定める: στ:=ϑ,bτϑ=σb,σ=τ:=σττσ,σVˇ:=xVxˇ=σ,where στ:=θdom(σ)(θσ+θτ).\begin{gathered} \left\| \sigma \in \tau \right\|_{\,} \mathrel{:=} \sum_{\left\langle \vartheta, b \right\rangle \in \tau} \left\| \vartheta = \sigma \right\|_{\,} \cdot b, \qquad \left\| \sigma = \tau \right\|_{\,} \mathrel{:=} \left\| \sigma \subseteq \tau \right\|_{\,} \cdot \left\| \tau \subseteq \sigma \right\|_{\,},\qquad \left\| \sigma \in \check{V} \right\|_{\,} \mathrel{:=} \sum_{x \in V} \left\| \check{x} = \sigma \right\|_{\,},\\ \text{where } \left\| \sigma \subseteq \tau \right\|_{\,} \mathrel{:=} \prod_{\theta \in \mathrm{dom}(\sigma)} \left(- \left\| \theta \in \sigma \right\|_{\,} + \left\| \theta \in \tau \right\|_{\,}\right). \end{gathered}

  • 一般のF ⁣L\mathord{\mathcal{F\!L}}-論理式φ[x]\varphi[\vec{x}]およびσVB\vec{\sigma} \in V^{\mathbb{B}}については,φ\varphiの複雑性に関するメタレベルの帰納法で次のように定める: φ[σ]ψ[σ]:=φ[σ]ψ[σ],¬φ[σ]:=φ[σ],xφ[x,σ]:=x˙VBφ[x˙,σ].\begin{gathered} \left\| \varphi[\vec{\sigma}] \wedge \psi[\vec{\sigma}] \right\|_{\,} \mathrel{:=} \left\| \varphi[\vec{\sigma}] \right\|_{\,} \cdot \left\| \psi[\vec{\sigma}] \right\|_{\,}, \qquad \left\| \neg \varphi[\vec{\sigma}] \right\|_{\,} \mathrel{:=} - \left\| \varphi[\vec{\sigma}] \right\|_{\,},\\ \left\| \forall x \: \varphi[x, \vec{\sigma}] \right\|_{\,} \mathrel{:=} \prod_{\dot{x} \in V^{\mathbb{B}}} \left\| \varphi[\dot{x}, \vec{\sigma}] \right\|_{\,}. \end{gathered}

  • bBb \in \mathbb{B}に対し,強制関係bφ[σ]defbφ[σ]b \Vdash \varphi[\vec{\sigma}] \xLeftrightarrow{\mathrm{def}} b \leq \left\| \varphi[\vec{\sigma}] \right\|_{\,}により定める.

  • VBφ[σ]V^{\mathbb{B}} \models \varphi[\vec{\sigma}]φ[σ]=1\left\| \varphi[\vec{\sigma}] \right\|_{\,} = \mathbb{1}の略記とする.

鋭い人は,上の真偽値の定義の\forallの部分に違和感を覚えるかもしれません: xφ[x,σ]:=x˙VBφ[x˙,σ].\begin{aligned} \left\| \forall x \: \varphi[x, \vec{\sigma}] \right\|_{\,} \mathrel{:=} \prod_{\dot{x} \in V^{\mathbb{B}}} \left\| \varphi[\dot{x}, \vec{\sigma}] \right\|_{\,}. \end{aligned} というのもここで,\prodVBV^{\mathbb{B}}という真のクラスを亘って取られているように見えるからです. 完備Boole代数では,\prod\sumの範囲は集合に限定されていた筈だが,これは大丈夫なのか?と心配になるわけです. しかし,ここで\prodはあくまでB\mathbb{B}特定の条件を満たす要素たちに対してとっており,B\mathbb{B}自体は集合ですので,最終的に下限が取られる対象も集合に収まるので問題はありません.

もう少し詳しく説明すると,以下のようになります. まず,上記のx˙VBφ[x˙,σ]\prod_{\dot{x} \in V^{\mathbb{B}}} \left\| \varphi[\dot{x}, \vec{\sigma}] \right\|_{\,}というのは以下の略記であったことを思い出しましょう: x˙VBφ[x˙,σ]={φ[x˙,σ]  |  x˙VB}={bB  |  x˙VBb=φ[x˙,σ]}\begin{aligned} &\prod_{\dot{x} \in V^{\mathbb{B}}} \left\| \varphi[\dot{x}, \vec{\sigma}] \right\|_{\,}\\ &= \prod \left\{\: \left\| \varphi[\dot{x}, \vec{\sigma}] \right\|_{\,} \;\middle|\; \dot{x} \in V^{\mathbb{B}} \:\right\}\\ &= \prod \left\{\: b \in \mathbb{B} \;\middle|\; \exists \dot{x} \in V^\mathbb{B} \: b = \left\| \varphi[\dot{x}, \sigma] \right\|_{\,} \:\right\} \end{aligned} 最後の式で\prodが取られているクラスは,ある論理式を満たすB\mathbb{B}の元の全体,という形で定義されています. いま,B\mathbb{B}そのものは集合でしたから,分出公理よりこの形のクラスも集合であることが保証されます. よって,B\mathbb{B}の完備性からその下限を取ることができ,無事定義がwell-definedになる訳です.

このように,,\prod, \sumをとる際に使われるパラメータが真のクラスであっても,B\mathbb{B}が集合を成すことに気を付ければ自由に上限・下限を取ることができるので,以下気にせず取ってしまうことにします.

これにより,VBV^{\mathbb{B}}において,強制法の論理式の解釈がB\mathbb{B}-真偽値として定まりました.

一つ注意しなくてはいけないのは,原子論理式に対する真偽値や\VdashVVの中で一様に定義できていますが,一般のφ\varphiについてはそうではない,ということです. つまり,\left\| - \right\|_{\,}というのは関数スキーマであって,実際にはφF ⁣L\varphi \in \mathord{\mathcal{F\!L}}が決まる度に関数φ[]:VBB\left\| \varphi[-] \right\|_{\,}: V^\mathbb{B} \to \mathbb{B}という関数が個別に定義されている,ということです. 同様に,pφ[σ]p \Vdash \varphi[\sigma]φ\varphiが決まるごとに,ppσ\sigmaの間の二項関係が定義されている,ということになります. これは,例えば自明なcBa 2\mathbf{2}を考えると,V2VV^{\mathbf{2}} \simeq Vとなってしまい,Vφ    φ2=1V \models \varphi \iff \left\| \varphi \right\|_{\,\mathbf{2}} = \mathbb{1}となりますが,もしこれがφ\varphiの関数としてVVの中で定義出来たとすれば,VVの真理述語が定義出来たことになり,Tarskiの真理定義不可能性に反します.

こうして広げたVBV^{\mathbb{B}}は,常に集合論のモデルとなります:

VBZFCV^{\mathbb{B}} \models \mathrm{ZFC}. 1

これも,厳密には定理スキーマです. つまり,ZFC\mathrm{ZFC}の各公理φ\varphiについて,φB=1\left\| \varphi \right\|_{\,\mathbb{B}} = \mathbb{1}となることが個別に示せる,ということです.

さて,強制法論理式ではVˇ\check{V}という述語記号を定義しましたが,ちゃんとこれが真偽も含めてVBV^{\mathbb{B}}におけるVVの写し身になっている,というのが次の二つの定理です:

集合論の論理式φ[x1,,xn]\varphi[x_1, \dots, x_n]a1,,anVa_1, \dots, a_n \in Vに対し, Vφ[a1,,an]    VBφVˇ[aˇ1,,aˇn].V \models \varphi[a_1, \dots, a_n] \iff V^{\mathbb{B}} \models \varphi^{\check{V}}[\check{a}_1, \dots, \check{a}_n]. 但し,φVˇ\varphi^{\check{V}}φ\varphiに現れる量化子x\exists x, x\forall xを全てxVˇ(x)\exists x \: \check{V}(x) \wedge \dotsおよびxVˇ(x)\forall x \: \check{V}(x) \to \dotsで置き換えたF ⁣L\mathord{\mathcal{F\!L}}-論理式.

VBVˇ:推移的,OnVˇV^{\mathbb{B}} \models \text{“}\check{V}: \text{推移的}, \mathord{\mathrm{On}} \subseteq \check{V}\text{”}.

従って,VVVBV^{\mathbb{B}}に埋め込まれていると見てよい話です. VBV^{\mathbb{B}}VVと順序数も共通しているので,高さが同じで,幅を横に広げてやったものと思えます. これから色々な命題の独立性を調べていくにあたって,その際にどういった性質が強制拡大で保たれるのかが気になります. 上の二つの定理から,次のような手頃な判断基準が得られます:

推移的モデルについて絶対的な概念は,強制概念で動かない. 特にΔ1\Delta_1-概念は強制法的に絶対. 特に,有限集合,ω\omegaである,関数である,順序数である,といった性質は動かない.

「推移的モデルについて絶対的な概念」の具体例については,たとえばこのサイトの「絶対性チートシート [3]を御覧ください.

さて,VBV^{\mathbb{B}}という物を考えたのは,VVにはない元を付加するためでした. それがジェネリックフィルターです.

  • 擬順序集合P\mathbb{P}について,FPF \subseteq \mathbb{P}P\mathbb{P}上のフィルターdef\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} FP\emptyset \neq F \subsetneq \mathbb{P}, xyF    xFx \geq y \in F \implies x \in F, x,yF    zFzx,yx, y \in F \implies \exists z \in F \: z \leq x, y.

  • pPp \in \mathbb{P}アトムdefr,sprs\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \forall r, s \leq p\: r \mathrel{\|} s.

  • フィルターFPF \subseteq \mathbb{P}超フィルターdef\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} FFは極大.

  • DPD \subseteq \mathbb{P}P\mathbb{P}稠密defxPyDyx\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \forall x \in \mathbb{P} \: \exists y \in D \: y \leq x.

  • MMを何らかのクラスとする. GBG \subseteq \mathbb{B}MM上のB\mathbb{B}-ジェネリックフィルター

    def\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} GGはフィルターであり,DM:Bで稠密DG\forall D \in M: \mathbb{B}\text{で稠密}\: D \cap G \neq \emptyset.

  • G˙:={bˇ,b  |  bB}VB\dot{G} \mathrel{:=} \left\{\: \left\langle \check{b}, b \right\rangle \;\middle|\; b \in \mathbb{B} \:\right\} \in V^{\mathbb{B}}B\mathbb{B}のジェネリックフィルターの標準的名称と呼ぶ.

上のジェネリックフィルターこそ,我々がVVに追加したかった「新しい元」「理想元」です. VBV^{\mathbb{B}}の各元は完備Boole代数B\mathbb{B}-値の所属確率を持つ元だと思えた訳ですが,逆にB\mathbb{B}の各元はこのジェネリックフィルターGGの〈近似〉だと思うことが出来るのです. より詳しく,B\mathbb{B}上の順序は,各元のGGの近似として自由度について並べられていると考えることが出来,qpq \leq pは「qqppを拡張する近似」「qqppより精しい近似」「ppの方がqqより自由度がある」と読むことが出来ます. この見方は,のちほど第 2節で擬順序に一般化した際にも通用します.

なぜこう思えるのでしょうか? それは,まず第一にはフィルターの定義を見てみるとわかります. フィルターというのは,貼り合わせられる近似の集合だと思えるのです. 特に,FFが下界について閉じているという条件が一番の本質です. \leqが近似の精しさを表していると思った時,rp,qr \leq p, qを満たすrrは,二つの近似pp, qq両方の情報を持った,いわば両者を貼り合わせたものだと思えます. フィルターFFが下界を取る操作で閉じている,ということは,FFが捉えている近似はいくらでも貼り合わせて精しく出来る,という事を意味します. そこに加えて,「超フィルターである」ということ,つまり極大なフィルターであるという事は,「貼り合わせが可能なギリギリの範囲まで集めてきた」ものだと思える訳で,それはつまり「近似を貼り合わせて得られるホンモノの対象」に対応していそうです.

今一実感が湧きづらいかもしれないので,実例を見てみましょう. 単位区間[0,1][0,1]に属する実数は,二進無限小数展開を通じて{0,1}\left\{ 0, 1 \right\}の無限列だと思うことが出来ます. この時,実数の有限桁の近似全体<ω2{}^{<\omega} {2}pqdefpqp \leq q \xLeftrightarrow{\mathrm{def}} p \supseteq qという順序を入れましょう. すると,この順序での超フィルターUUを考えたとき,UUの各元を貼り合わせて得られるU\bigcup Uは,{0,1}\left\{ 0, 1 \right\}の無限列となり,一つの実数に対応することがわかります. 逆に,実数x:ω2x : \omega \to 2が与えられれば,これらの最初の有限桁の近似ぜんぶを持ってくれば,これが(<ω2,)({}^{<\omega} {2}, \supseteq)の超フィルターとなることもすぐにわかります.

もちろん,超フィルターは選択公理させあればいつでも取れる訳で,単なる超フィルターである,という条件だけではまだ理想元であるとはいえません. 「理想元である」という事を捕まえているのが,ジェネリック性の「MMに属する稠密集合と必ず交わる」という条件です. DDMMで稠密である,ということは,いいかえれば「どんな近似も,適切に拡張することで性質DDを満たすようにできる」という事です. また,cBaの場合に計算してみれば,DDが稠密ならその上限はD=1\sum D = \mathbb{1}となることもわかります. つまり,「DDが稠密である」という事はのは,B\mathbb{B}の意味で「性質DDはほぼ確率1\mathbb{1}で成り立つ」であると思える訳です. これを踏まえれば,ジェネリック性は「MMで捕まえられるような,B\mathbb{B}の各元が普遍的に満たすような性質は,それらを貼り合わせて得られる理想元GGも満たしている」という意味に解釈出来る訳です.

では,このGGは本当に新しい元になっているのでしょうか? たとえば,B\mathbb{B}GGの〈近似〉としては自明な元を含む場合,にはGGがもともとVVの元であった,といったことは起きそうです. 自明な近似,というのは,「それより延ばしようがない」あるいは「それから先の延ばし方が一通りしかない」ような近似で,といっても構いません. そのような「一番精しい近似」とでもいうべきものが,上で最後に定義したアトムの概念です. では,アトムを持たないようなcBaであれば,ジェネリックフィルターはVVの属さない本当に「新しい元」になっているのではないか? 実際そうだ,というのが次の定理です:

B\mathbb{B}がアトムを持たないなら,VV上のB\mathbb{B}-ジェネリックフィルターはVVに存在しない.

Proof. まず,B\mathbb{B}がアトムを持たない場合,一般にB\mathbb{B}上のフィルターFFに対し,D:=BFD \mathrel{:=} \mathbb{B} \setminus Fは稠密集合となることを示す. xBx \in \mathbb{B}を取れば,p,qxp, q \leq xpq=0p \cdot q = 0を満たすものが存在する. すると,FFがフィルターである事から,p,qp, qの少なくとも一方はFFに属さない事がわかる. 従ってpDp \in DまたはqDq \in Dのいずれか一方のみが成り立たなくてはならない. xxの選択は任意であったから,DDB\mathbb{B}で稠密である.

以上を踏まえれば,もしジェネリックフィルターGGVVに属したとすると,D:=BGVD \mathrel{:=} \mathbb{B} \setminus G \in Vは稠密集合となり,DGD \cap G \neq \emptysetとなってしまうが,これは矛盾である.

よって,十分複雑なB\mathbb{B}についてはジェネリックフィルターは非自明なものであることがわかりました. このことから,次の補題により,「新しい元」がVBV^{\mathbb{B}}に付け加わっていると思うことが出来ます:

VBG˙:Vˇ上 Bˇ-ジェネリック”V^{\mathbb{B}} \models \text{“}\dot{G}: \check{V}\text{上 }\check{\mathbb{B}}\text{-ジェネリック}\text{”}.

Proof. 定義からbˇG˙=cBcˇ=bˇc=b\displaystyle \left\| \check{b} \in \dot{G} \right\|_{\,} = \sum_{c \in \mathbb{B}} \left\| \check{c} = \check{b} \right\|_{\,} \cdot c = bとなる事に注意する. すると,VB1ˇG˙,0ˇG˙V^{\mathbb{B}} \Vdash \check{\mathbb{1}} \in \dot{G}, \check{0} \notin \dot{G}はすぐにわかる. 上に閉じていることも, bˇcˇbˇG˙    cˇG˙=(bˇcˇbˇG˙)+cˇG˙=(bˇcˇb)+c=1.\left\| \check{b} \leq \check{c} \wedge \check{b} \in \dot{G} \implies \check{c} \in \dot{G} \right\|_{\,} = - (\left\| \check{b} \leq \check{c} \right\|_{\,} \cdot \left\| \check{b} \in \dot{G} \right\|_{\,}) + \left\| \check{c} \in \dot{G} \right\|_{\,} = - (\left\| \check{b} \leq \check{c} \right\|_{\,} \cdot b) + c = \mathbb{1}. また,bcˇ=(bˇcˇ)G˙=bc=bˇG˙cˇG˙\left\| \check{b \cdot c} = (\check{b} \cdot \check{c}) \in \dot{G} \right\|_{\,} = b \cdot c = \left\| \check{b} \in \dot{G} \wedge \check{c} \in \dot{G} \right\|_{\,}よりG˙\dot{G}の任意の二元は両立する. よってG˙\dot{G}はフィルターである. 更に,bˇG˙=bˇG˙=b=bˇG˙\left\| \check{b} \notin \dot{G} \right\|_{\,} = - \left\| \check{b} \in \dot{G} \right\|_{\,} = - b = \left\| -\check{b} \in \dot{G} \right\|_{\,}なので,G˙\dot{G}は超フィルターでもある.

最後に,DVD \in Vを稠密集合とすると, DˇG˙=xDˇxG˙=dDdG˙=D=1.\left\| \check{D} \cap \dot{G} \neq \emptyset \right\|_{\,} = \left\| \exists x \in \check{D} \: x \in \dot{G} \right\|_{\,} = \sum_{d \in D} \left\| d \in \dot{G} \right\|_{\,} = \sum D = \mathbb{1}. よってVBG˙:V 上 B-ジェネリック”V^{\mathbb{B}} \models \text{“}\dot{G}: V\text{ 上 }\mathbb{B}\text{-ジェネリック}\text{”}.

このようにして,VBV^{\mathbb{B}}の中では,VVに存在しないジェネリックフィルターが存在しているかのように見えていることがわかりました. 更に,実はVBV^{\mathbb{B}}は自分がVˇ\check{V}G˙\dot{G}を含む最小のZFC\mathrm{ZFC}のモデルであると信じている事もわかります.

それを述べるには,次のような定義が必要になります:

  • FFB\mathbb{B}のフィルターとする. B\mathbb{B}-name τ\tauFF-解釈τF:=val(τ,F)\tau^F \mathrel{:=} \mathop{\mathrm{val}}(\tau, F)を帰納的に次のように定める: val(τ,F):={val(σ,F)  |  (σ,b)τ,bF}.\mathop{\mathrm{val}}(\tau, F) \mathrel{:=} \left\{\: \mathop{\mathrm{val}}(\sigma, F) \;\middle|\; (\sigma, b) \in \tau, b \in F \:\right\}.

  • MMを推移的な集合論のモデルとし,BM\mathbb{B} \in MをcBaとする. MM上のB\mathbb{B}-ジェネリックフィルターGGに対し,MMGGによるジェネリック拡大M[G]M[G]を次で定める: M[G]:={σG  |  σMB}.M[G] \mathrel{:=} \left\{\: \sigma^G \;\middle|\; \sigma \in M^{\mathbb{B}} \:\right\}.

M[G]M[G]MNM \subseteq NGNG \in Nを満たす推移的モデルNNの中で最小.

Proof. NNが推移的でMNM \subseteq NかつGNG \in NならMBNM^{\mathbb{B}} \subseteq Nとなることは明らか. val\mathop{\mathrm{val}}の値も明らかに推移的モデルについては絶対的なので,M[G]NM[G] \subseteq Nとなる.

任意のτVB\tau \in V^{\mathbb{B}}に対し,VBτ=τˇG˙V^{\mathbb{B}} \models \tau = \check{\tau}^{\dot{G}}.

よってVBxxVˇ[G˙]V^{\mathbb{B}} \models \forall x \: x \in \check{V}[\dot{G}]が成り立ち,VBV^{\mathbb{B}}は自分自身の事をVˇ[G˙]\check{V}[\dot{G}]だと思い込んでいる.

Proof. τ\tauのランクに関する帰納法.

Diagram

よって以上から,VBV^{\mathbb{B}}V[G]V[G]と同一視して,あたかもVV上のジェネリックフィルターGGが取れているかのように考えても差し支えないということがわかります. このような見方の下で,VVV[G]V[G]は,右図のような形をしています.

強制法の一般論へ

以上の理論はcBaについて構築してきましたが,実用上は擬順序集合による強制法を考えるのが便利です.

  • P,,1\left\langle \mathbb{P}, \leq, \mathbb{1} \right\rangle擬順序集合posetdef\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \leqP\mathbb{P}上反射的かつ推移的であり,1\mathbb{1}はその最大元.

  • pqdefrPrp,qp \mathrel{\|} q \xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \exists r \in \mathbb{P} \: r \leq p, q.

  • pqdef¬(pq)p \perp q \xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \neg (p \mathrel{\|} q).

問題は,cBaで量化子を解釈する際には無限演算\prod, \sumが使えたのに対し,posetの場合はそう素直にいかない事です. そこで,posetによる強制法を考える場合には,真偽値\left\| \quad \right\|_{\,}ではなく強制関係\Vdashを基本的な関係として考えます.

まず,簡単な計算により,cBaの場合は\Vdashが次を満たすことがわかります:

φ,ψ\varphi, \psiを強制法の論理式とする.

  • pστ    {qp  |  s,θτqs,qσ=θ}p \Vdash \sigma \in \tau \iff \left\{\: q \leq p \;\middle|\; \exists \left\langle s, \theta \right\rangle \in \tau \: q \leq s, q \Vdash \sigma = \theta \:\right\}pp以下で稠密.

  • pσ=τ    ϑdom(σ)dom(τ)qp[qϑσ    qϑτ]p \Vdash \sigma = \tau \iff \forall \vartheta \in \mathrm{dom}(\sigma) \cup \mathrm{dom}(\tau)\:\forall q \leq p \: [ q \Vdash \text{“}\vartheta \in \sigma\text{”} \iff q \Vdash \text{“}\vartheta \in \tau\text{”} ].

  • pφψ    pφp \Vdash \varphi \wedge \psi \iff p \Vdash \varphiかつpψp \Vdash \psi.

  • p¬φ    {q  |  qφ}p \Vdash \neg \varphi \iff \left\{\: q \;\middle|\; q \not\Vdash \varphi \:\right\}pp以下で稠密.

  • pxφ(x)    σVPpφ(σ)p \Vdash \forall x \varphi(x) \iff \forall \sigma \in V^{\mathbb{P}} \: p \Vdash \varphi(\sigma).

そこで,一般のposetの場合はこれを逆に定義として採用してしまいましょう.

Poset P\mathbb{P}φF ⁣L\varphi \in \mathord{\mathcal{F\!L}}およびpPp \in \mathbb{P}に対して,pPφp \Vdash_{\mathbb{P}} \varphiを上の補題の各条件で定義する.

またVPφV^{\mathbb{P}} \models \varphi1Pφ\mathbb{1} \Vdash_{\mathbb{P}} \varphiの略記とする.

これで形だけは定義出来た訳ですが,果してBoole値モデルとちゃんと対応してくれるでしょうか? それを見るためには,posetの埋め込みと完備化についての理論が必要になります.

  • 以下の三条件を満たすとき,i:PQi: \mathbb{P} \to \mathbb{Q}稠密埋め込みという:

    1. i(1P)=1Qi(\mathbb{1}_{\mathbb P}) = \mathbb{1}_{\mathbb{Q}}.

    2. pPq    i(p)Qi(q)p \leq_{\mathbb{P}} q \implies i(p) \leq_{\mathbb{Q}} i(q),

    3. pq    i(p)i(q)p \mathrel{\|} q \iff i(p) \mathrel{\|} i(q),

    4. i[P]i[\mathbb{P}]Q\mathbb{Q}で稠密.

  • i:PBi: \mathbb{P} \to \mathbb{B}P\mathbb{P}Boole完備化def\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} ran(i)B{0}\mathop{\mathrm{ran}}(i) \subseteq \mathbb{B} \setminus \left\{ 0 \right\}でありiiは稠密.

順序集合の一般論により,次が言えます:

任意のposet P\mathbb{P}に対し,そのBoole完備化B=B(P)\mathbb{B} = \mathbb{B}(\mathbb{P})が同型を除いて一意に存在する. 特に,P\mathbb{P}の擬順序位相に関する正則開集合代数はその一つ.

これらから,我々はP\mathbb{P}による強制法と,B(P)\mathbb{B}(\mathbb{P})によるBoole値モデルの二つの方法を得た訳です. これらの関係を与えるのが次の補題です:

i:PQi: \mathbb{P} \to \mathbb{Q}を稠密埋め込みとする. この時,ı~:P(P)P(Q)\tilde{\imath}: \mathop{\mathcal{P}}(\mathbb{P}) \to \mathop{\mathcal{P}}(\mathbb{Q})およびi:VPVQi^*: V^{\mathbb{P}} \to V^{\mathbb{Q}}を次で定める: ı~(A):={qQ  |  pAi(p)Qq},i(σ):={i(τ),i(p)  |  τ,pσ},i(σ):={i(τ),p  |  τ,qσ,i(p)q}.\begin{aligned} \tilde{\imath}(A) &\mathrel{:=} \left\{\: q \in \mathbb{Q} \;\middle|\; \exists p \in A \: i(p) \leq_{\mathbb{Q}} q \:\right\},\\ i^*(\sigma) & \mathrel{:=} \left\{\: \left\langle i^*(\tau), i(p) \right\rangle \;\middle|\; \left\langle \tau, p \right\rangle \in \sigma \:\right\},\\ i_*(\sigma) & \mathrel{:=} \left\{\: \left\langle i_*(\tau), p \right\rangle \;\middle|\; \left\langle \tau, q \right\rangle \in \sigma, i(p) \leq q \:\right\}. \end{aligned}

  • VPσ=i(i(σ))V^{\mathbb{P}} \models \sigma = i_*(i^*(\sigma)), VQσ=i(i(σ))V^{\mathbb{Q}} \models \sigma = i^*(i_*(\sigma)).

  • GGP\mathbb{P}-ジェネリックならH:=ı~(G)H \mathrel{:=} \tilde{\imath}(G)Q\mathbb{Q}-ジェネリックでV[G]=V[H]V[G] = V[H].

  • HHQ\mathbb{Q}-ジェネリックならG:=i1[H]G \mathrel{:=} i^{-1}[H]P\mathbb{P}-ジェネリックでV[H]=V[G]V[H] = V[G].

  • pPφ[σ1,,σn]    i(p)Qφ[i(σ1),,i(σn)]p \Vdash_{\mathbb{P}} \varphi[\sigma_1, \dots, \sigma_n] \iff i(p) \Vdash_{\mathbb Q} \varphi[i^*(\sigma_1), \dots, i^*(\sigma_n)].

つまり,二つのposetの間に稠密埋め込みが存在した場合,それらは強制法としては同値になるのです. 特に,P\mathbb{P}による強制と,B=B(P)\mathbb{B} = \mathbb{B}(\mathbb{P})による強制とで結果は変わらない事がわかります. B\mathbb{B}の方が見掛け上の真偽値が多くVBV^{\mathbb{B}}も大きく見えますが,表現出来る集合の数は本質的にVPV^{\mathbb{P}}と変わっていない訳です.

強制関係\Vdashの基本性質

Boole値モデルの場合はB\mathbb{B}の各元は真偽値の集合と思った訳ですが,posetの場合はP\mathbb{P}の各元はジェネリックオブジェクトの近似だと思って,pφp \Vdash \varphiは「近似ppの下でφ\varphiが成立する」と読むのがわかりやすいでしょう.

Posetの場合は真偽値の計算は出来ませんが,強制関係の計算によって何が成り立つのかを調べる事が出来ます. そうした計算上で,次の補題はよく使われます:

  • pφ    {q  |  qφ}p \Vdash \varphi \iff \left\{\: q \;\middle|\; q \Vdash \varphi \:\right\}pp以下で稠密.

  • pxaˇφ(x)    {q  |  apφ(aˇ)}p \Vdash \exists x \in \check{a}\: \varphi(x) \iff \left\{\: q \;\middle|\; \exists a \: p \Vdash \varphi(\check{a}) \:\right\}pp以下で稠密.

  • 任意のφ\varphipPp \in \mathbb{P}に対し, qp(qφ)(q¬φ)\exists q \leq p\: (q \Vdash \varphi) \vee (q \Vdash \neg \varphi).

  • V[G]φ    pGpφV[G] \models \varphi \iff \exists p \in G\: p \Vdash \varphi.

連続体仮説の独立性

これらを使って,連続体仮説の独立性を証明したいと思います.

  • Add(κ):=(<κ2,)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa) \mathrel{:=} ({}^{<\kappa} {2}, \supseteq)κ\kappaの部分集合を付け足すposetと呼ぶ.

  • 基数κ\kappaについて,posets (Pi,i,1i)  |  iI\left\langle\: (\mathbb{P}_i, \leq_i, \mathbb{1}_i) \; \middle|\; i \in I \:\right\rangleκ\kappa-台直積を次で定める: iI<κPi:={p:function  |  dom(p)[I]<κ,idom(p)p(i)Pi},1:=,pqdefdom(p)dom(q)idom(p)p(i)iq(i).\begin{gathered} \prod_{i \in I}^{<\kappa} \mathbb{P}_i \mathrel{:=} \left\{\: p : \text{function} \;\middle|\; \mathrm{dom}(p) \in [I]^{<\kappa}, \forall i \in \mathrm{dom}(p)\: p(i) \in \mathbb{P}_i \:\right\},\\ \mathbb{1} \mathrel{:=} \emptyset,\\ p \leq q \xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \mathrm{dom}(p) \supseteq \mathrm{dom}(q) \wedge \forall i \in \mathrm{dom}(p)\: p(i) \leq_i q(i). \end{gathered}

  • Add(κ,γ):=α<γ<κAdd(κ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa, \gamma) \mathrel{:=} \prod_{\alpha < \gamma}^{< \kappa} \mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)κ\kappaの部分集合をγ\gamma個付け加えるposetと呼ぶ.

次でみるように,Add(κ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)は,κ\kappaから22への関数を付加するので,特性関数だと思えば確かにAdd(κ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)は新たなκ\kappaの部分集合を付け足していると言える.

GGVV上のAdd(κ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)-ジェネリックフィルターとすると,V[G]G˙:κ2V[G] \models \bigcup\dot{G}: \kappa \to 2.

Proof. まずGGがフィルターであり,特に任意の二元が両立することから,G\bigcup Gは関数となることに注意する.

なので,あとはG\bigcup Gκ\kappa全域で定義されている事をみればよい. ここで,以下の形の集合はVVに属するAdd(κ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)の稠密集合である: Dα:={pAdd(κ)  |  αdom(p)}  (α<κ)D_\alpha \mathrel{:=} \left\{\: p \in \mathop{\mathsf{Add}}(\kappa) \;\middle|\; \alpha \in \mathrm{dom}(p) \:\right\}\;(\alpha < \kappa) よって,各α<κ\alpha < \kappaについてGDαG \cap D_\alpha \neq \emptyset. 以上よりκ=dom(G)\kappa = \mathrm{dom}(\bigcup G).

κ\kappaが正則基数のときAdd(κ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)の組合せ論的性質として,次が成り立つことがわかる:

Poset P\mathbb{P}γ\gamma-閉def\xLeftrightarrow{\mathrm{def}}任意のα<γ\alpha < \gammaと降鎖pβ  |  β<α\left\langle\: p_\beta \; \middle|\; \beta < \alpha \:\right\rangleβ<ξ    pβpξ\beta < \xi \implies p_\beta \leq p_\xi)に対し,下界pp^*が存在:β<αppβ\forall \beta < \alpha\: p^* \leq p_\beta.

κ\kappaが正則の時,Add(κ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)およびAdd(κ,γ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa, \gamma)cf(κ)\mathrm{cf}(\kappa)-閉.

Proof. γ<cfκ\gamma < \mathrm{cf} \kappaとしてpα  |  α<γ\left\langle\: p_\alpha \; \middle|\; \alpha < \gamma \:\right\rangleAdd(κ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)の降鎖とする. この時,ξ<cfκ\xi < \mathrm{cf} \kappaかつdom(p)<κ\mathrm{dom}(p) < \kappaであることから,supα<γdom(pα)<κ\sup_{\alpha < \gamma} \mathrm{dom}(p_\alpha) < \kappa. よってp:=α<γpaAdd(κ)p^* \mathrel{:=} \bigcup_{\alpha < \gamma} p_a \in \mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)がこの降鎖の下界となる.

Add(κ,γ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa, \gamma)の方も同様.

なぜこのような性質を考えるのかというと,κ\kappa-閉なposetによる強制法はκ\kappa以下の基数を保つからです. より具体的に次が成り立ちます:

P\mathbb{P}κ\kappa-閉の時,V[G]<κVVV[G] \models {}^{< \kappa} {V} \subseteq V.

Proof. 1σ<κV\mathbb{1} \Vdash \sigma \in {}^{<\kappa} {V}を満たすσVP\sigma \in V^{\mathbb{P}}を固定し,D:={p  |  pσVˇ}D \mathrel{:=} \left\{\: p \;\middle|\; p \Vdash \sigma \in \check{V} \:\right\}P\mathbb{P}で稠密となる事を示そう. そこでppを任意に取る. 補題 4よりqdom(σ)=αq \Vdash \mathrm{dom}(\sigma) = \alphaを満たすようなα<κ\alpha < \kappaqpq \leq pが取れる. あとは,qq以下の降鎖qγ  |  γ<α\left\langle\: q_\gamma \; \middle|\; \gamma < \alpha \:\right\ranglexγV  |  γ<α\left\langle\: x_\gamma \in V \; \middle|\; \gamma < \alpha \:\right\rangleqγσ(γˇ)=xˇγq_\gamma \Vdash \sigma(\check{\gamma}) = \check{x}_\gammaを満たすものを,κ\kappa-閉性を使ってとっていく. そして最終的にqq^*qαq_\alphaの下界とすれば,pqσ=xˇγγ<αVˇp \geq q^* \Vdash \text{“}\sigma = \left\langle \check{x}_\gamma | \gamma < \alpha \right\rangle \in \check{V}\text{”}となるのでqDq^* \in Dが求めるもの.

以上からV[G]<κVVV[G] \models {}^{< \kappa} {V} \subseteq V.

P\mathbb{P}κ\kappa-閉ならP\mathbb{P}κ\kappa以下の基数を保つ.

Proof. P\mathbb{P}での強制によって短い列は増えないので,基数の壊れようがない.

κ\kappaが正則でGGVVAdd(κ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)-ジェネリックならV[G]2<κ=κV[G] \models 2^{< \kappa } = \kappa.

Proof. 2<κκ2^{< \kappa} \geq \kappaは明らかなので,κ\kappaから2<κ2^{<\kappa}への全射が付け加わる事がわかればよい. 特に,Add(κ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)κ\kappa-閉なので,2<κ2^{<\kappa}VVV[G]V[G]で全く同じである事に注意しよう. そこで,:κ×κκ\left\langle -, - \right\rangle: \kappa \times \kappa \stackrel{\sim}{\to} \kappaを標準的な全単射で,特に各切片が 次の各集合DsD_sを考えよう: Ds:={p  |  α<κγdom(s)p(α,γ)=s(i)}  (s<κ2).D_s \mathrel{:=} \left\{\: p \;\middle|\; \exists \alpha < \kappa \: \forall \gamma \in \mathrm{dom}(s) \:p(\left\langle \alpha, \gamma \right\rangle) = s(i) \:\right\}\;(s \in {}^{<\kappa} {2}). いま適当にpAdd(κ)p \in \mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)を取れば,κ\kappaの正則性よりη:=sup{α+1  |  βα,βdom(p)}<κ\eta \mathrel{:=} \sup \left\{\: \alpha+1 \;\middle|\; \exists \beta \: \left\langle \alpha, \beta \right\rangle \in \mathrm{dom}(p) \:\right\} < \kappaとなる. そこでp(η,γ):=s(γ)  (γ<dom(s))p'(\left\langle \eta, \gamma \right\rangle) \mathrel{:=} s(\gamma)\;(\gamma < \mathrm{dom}(s))として,余りは適当に埋めれば,ppp' \leq pかつpDsp' \in D_sを満たす. よって各DsD_sAdd(κ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)で稠密である.

そこで,V[G]V[G]f:=Gf \mathrel{:=} \bigcup Gとおいて,F:={f(α,)γ  |  γ,α<κ}\mathcal{F} \mathrel{:=} \left\{\: f(\left\langle \alpha, - \right\rangle) \upharpoonright \gamma \;\middle|\; \gamma, \alpha < \kappa \:\right\}とおけば,Fκ|\mathcal{F}| \leq \kappaである. 一方,s<κ2s \in {}^{<\kappa} {2}を取れば,Add(κ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa)κ\kappa-閉性よりsVs \in Vであり,GDsG \cap D_s \neq \emptysetを満たすので,定義からsFs \in \mathcal{F}となる. よって2<κFκ2^{<\kappa} \leq |\mathcal{F}| \leq \kappaであるから,V[G]2<κ=κV[G] \models 2^{<\kappa} = \kappaが成り立つ.

GG: VVAdd(κ+)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa^+)-ジェネリック     \implies V[G]κ:基数2κ=κ+V[G] \models \text{“}\kappa: \text{基数} \wedge 2^\kappa = \kappa^+\text{”}.

特にAdd(ω1)\mathop{\mathsf{Add}}(\omega_1)は実数を一切足さずに連続体仮説を強制する.

Proof. 前の補題よりV[G]2κ=2<κ+=κ+V[G] \models 2^\kappa = 2^{< \kappa^+} = \kappa^+. Add(ω1)\mathop{\mathsf{Add}}(\omega_1)ω1\omega_1-閉なので可算列は増えず,従って実数も足さない.

このようにCH\mathrm{CH}を強制することも出来ますが,元々は強制法はCH\mathrm{CH}を破るための発明でした. それにはどうすればいいでしょうか? 取り敢えず,実数を一つ(対角化すれば可算個)付け加えるのはAdd(ω)\mathop{\mathsf{Add}}(\omega)で出来ますから,これを2\aleph_2回繰り返してやれば良さそうです. その際には,上で気にしたように基数を保存するかどうか?というのが重要になってきます. だって,2\aleph_2個実数を足してやったところで,2V\aleph_2^VV[G]V[G]で可算になっていたら意味がありませんから. その事を確かめるために閉性とともに良く用いられるのがκ\kappa-鎖条件です.

P\mathbb{P}κ\kappa-鎖条件κ\kappa-chain condition, κ\kappa-c.c.)を満たすdef\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} P\mathbb{P}の反鎖の濃度はκ\kappa未満.

閉性は「小さい」基数を保つ条件でしたが,鎖条件は「大きな」基数を保つ条件です.

P\mathbb{P}κ\kappa-c.c.を満たすならP\mathbb{P}κ\kappa以上の基数を保つ. 即ちVVの任意の基数λκ\lambda \geq \kappaについてPλˇ:基数”\mathbb{P} \models \text{“}\check{\lambda}: \text{基数}\text{”}.

これには次の補題を用いることになります:

P\mathbb{P}κ\kappa-c.c.でf˙\dot{f}Pf˙:AˇBˇ\mathbb{P} \Vdash \dot{f}: \check{A} \to \check{B}を満たす関数のP\mathbb{P}-名称なら,F:A[B]<κF: A \to [B]^{< \kappa}が存在してxAˇPf˙(xˇ)Fˇ(xˇ)\forall x \in \check{A} \:\mathbb{P} \Vdash \text{“}\dot{f}(\check{x}) \in \check{F}(\check{x})\text{”}

Proof. 以下のようにFFを定める: F(x):={yB  |  pPpf˙(xˇ)=yˇ}.F(x) \mathrel{:=} \left\{\: y \in B \;\middle|\; \exists p \in \mathbb{P} \: p \Vdash \text{“}\dot{f}(\check{x}) = \check{y}\text{”} \:\right\}. すると,Pf˙(xˇ)Fˇ(xˇ)\mathbb{P} \Vdash \dot{f}(\check{x}) \in \check{F}(\check{x})は明らか. このままだとF:AP(B)F: A \to \mathop{\mathcal{P}}(B)ということしかわからないので,F(x)<λ|F(x)| < \lambdaを示そう. そこで,定義により各yF(x)y \in F(x)に対しpyf˙(xˇ)=yˇp_y \Vdash \dot{f}(\check{x}) = \check{y}を取り,Ax:={pyP  |  yF(x)}A_x \mathrel{:=} \left\{\: p_y \in \mathbb{P} \;\middle|\; y \in F(x) \:\right\}とおく. ここで,pypzp_y \mathrel{\|} p_zとすると,qpy,pzq \leq p_y, p_zを取ればqyˇ=f˙(xˇ)=zˇq \Vdash \text{“}\check{y} = \dot{f}(\check{x}) = \check{z}\text{”}となり,定理 2からy=zy = zとなります. この事から,特に対応ypyy \mapsto p_yは単射なのでF(x)Ax|F(x)| \leq |A_x|となり,更にAxA_xは反鎖となることがわかります. すると,κ\kappa-c.c.からF(x)Ax<κ|F(x)| \leq |A_x| < \kappaを得ます.これが示したかったことでした.

Proof of Theorem 8. 基数の極限は基数であり,極限基数は正則基数の極限で書けるので,κ\kappa以上の正則基数が保たれる事を示せばよい.

そこで,任意の正則基数λκ\lambda \geq \kappaγ<λ\gamma < \lambdaに対し,Pf˙:γˇλˇ\mathbb{P} \Vdash \dot{f}: \check{\gamma} \to \check{\lambda}ならPf˙:有界”\mathbb{P} \Vdash \text{“}\dot{f}: \text{有界}\text{”}となる事を示しましょう. この時,上の補題 9からF:γ[λ]<κF: \gamma \to [\lambda]^{<\kappa}で任意のα<γ\alpha < \gammaに対しpf˙(αˇ)Fˇ(αˇ)p \Vdash \text{“}\dot{f}(\check{\alpha})\text{”} \in \check{F}(\check{\alpha})を満たす関数が存在します. 今,λκ\lambda \geq \kappaかつF(α)<γ|F(\alpha)| < \gammaであるので,λ\lambdaの正則性よりξ:=supα<γsupF(α)<λ\xi \mathrel{:=} \sup_{\alpha < \gamma} \sup F(\alpha) < \lambdaとなります. すると,各α<γ\alpha < \gammaについてpf˙(αˇ)supFˇ(αˇ)γ<λp \Vdash \dot{f}(\check{\alpha}) \leq \sup \check{F}(\check{\alpha}) \leq \gamma < \lambda.

Add(κ,γ)\mathop{\mathsf{Add}}(\kappa, \gamma)(2<κ)+(2^{<\kappa})^+-c.c.を持つ.

この事実の証明にはΔ\Delta-システム補題を使いますが,新しい概念を導入するのが面倒になったのでやりません. 証明じたいはそこまで面倒なものではないので,気になった人はKunen  [4]などを参考にしてください.

Add(ω,γ)\mathop{\mathsf{Add}}(\omega, \gamma)ω1\omega_1-c.c.を持つ. 特に,Add(ω,γ)\mathop{\mathsf{Add}}(\omega, \gamma)は全ての基数を保存する.

基数λ\lambdaに対し,Add(ω,λ)20λ\mathop{\mathsf{Add}}(\omega, \lambda) \Vdash 2^{\aleph_0} \geq \lambda.

Proof. 上の系からAdd(ω,λ)\mathop{\mathsf{Add}}(\omega, \lambda)は全ての基数を保つので,λ\lambdaは依然として基数であることに注意.

そこでGGVV上のAdd(ω,λ)\mathop{\mathsf{Add}}(\omega, \lambda)-ジェネリックフィルターとして,以下のようにfα:ω2f_\alpha : \omega \to 2を定める: fα(n):=(G)(α,n)  (n<ω,α<λ).f_\alpha(n) \mathrel{:=} \left(\bigcup G\right)(\alpha, n)\;(n < \omega, \alpha < \lambda). この時,次のDn,EβαD_n, E^\alpha_\betaはそれぞれAdd(ω,λ)\mathop{\mathsf{Add}}(\omega, \lambda)で稠密である: Dn:={pAdd(ω,λ)  |  αdom(p)ndomp(α)}  (n<ω)Eβα:={pAdd(ω,λ)  |  ndomp(α)domp(β)p(α)(n)p(β)(n)}  (α<β<λ).\begin{gathered} D_n \mathrel{:=} \left\{\: p \in \mathop{\mathsf{Add}}(\omega, \lambda) \;\middle|\; \forall \alpha \in \mathrm{dom}(p) \: n \in \mathrm{dom} p(\alpha) \:\right\}\; (n < \omega)\\ E^\alpha_\beta \mathrel{:=} \left\{\: p \in \mathop{\mathsf{Add}}(\omega, \lambda) \;\middle|\; \exists n \in \mathrm{dom} p(\alpha) \cap \mathrm{dom} p(\beta) \: p(\alpha)(n) \neq p(\beta)(n) \:\right\} \; (\alpha < \beta < \lambda). \end{gathered} すると,DnGD_n \cap G \neq \emptysetより各fα:ω2f_\alpha : \omega \to 2であり,EβαGE^\alpha_\beta \cap G \neq \emptysetより任意のα<β<λ\alpha < \beta < \lambdaに対してfαfβf_\alpha \neq f_\betaとなるから,{fα}α\left\{ f_\alpha \right\}_\alphaλ\lambdaの相異なる実数の列である. よってV[G]2ωλˇV[G] \models 2^\omega \geq \check{\lambda}.

よって,Add(ω,2)\mathop{\mathsf{Add}}(\omega, \aleph_2)で強制すれば,CH\mathrm{CH}を破ることが出来た. 実は,適切な仮定の下でAdd(ω,λ)\mathop{\mathsf{Add}}(\omega, \lambda)による強制拡大における連続体の濃度は決定できる.

P\mathbb{P}λ\lambda-c.c.を満たしP=ν|\mathbb{P}| = \nuとする. 基数μ\muに対してθ:=(ν<λ)μ\theta \mathrel{:=} (\nu^{<\lambda})^\muとするとP2μˇθˇ\mathbb{P} \Vdash 2^{\check{\mu}} \leq \check{\theta}.

Proof. まず,この補題のν<λ\nu^{<\lambda}というのは,P\mathbb{P}の完備化の濃度の上界である.

鎖条件は稠密埋め込みによって保たれることはすぐにわかる. そこでP\mathbb{P}の代わりに完備化B=B(P)\mathbb{B} = \mathbb{B}(\mathbb{P})を代わりに考えよう. B\mathbb{B}P\mathbb{P}の全ての部分集合の上限・下限を付け足して得られる訳だが,「重複」を除いて考えれば,P\mathbb{P}の反鎖の上限・下限だけを考えればよい. いま,P\mathbb{P}λ\lambda-c.c.を満たすから,反鎖の総数は高々ν<λ\nu^{<\lambda}個しかない. よってBν<λ|\mathbb{B}| \leq \nu^{<\lambda}である.

そこでx˙\dot{x}PBx˙μˇ\mathbb{P} \Vdash_{\mathbb{B}} \dot{x} \subseteq \check{\mu}を満たすものとする. このとき, Fx˙(α):=αˇx˙BF_{\dot{x}}(\alpha) \mathrel{:=} \left\| \check{\alpha} \in \dot{x} \right\|_{\,\mathbb{B}} により写像Fx˙:μBF_{\dot{x}}: \mu \to \mathbb{B}が定まる. このような写像の総数はμB=Bμ(ν<λ)μ=θ|{}^{\mu} {\mathbb{B}}| = |\mathbb{B}|^\mu \leq (\nu^{<\lambda})^\mu = \theta. Px˙=y˙\mathbb{P} \Vdash \text{“}\dot{x} = \dot{y}\text{”}ならばFx˙=Fy˙F_{\dot{x}} = F_{\dot{y}}となるから, よってμ\muの部分集合の名称は本質的にθ\theta個しか存在しないので,P2μθˇ\mathbb{P} \Vdash 2^{\mu} \leq \check{\theta}.

GCH\mathrm{GCH}を仮定する. cfλ>ω\mathrm{cf} \lambda > \omegaならAdd(ω,λ)2ω=λˇ\mathop{\mathsf{Add}}(\omega, \lambda) \Vdash 2^{\omega} = \check{\lambda}.

Proof. Add(ω,λ)=[λ]<ω×2<ω=λ×ω=λ|\mathop{\mathsf{Add}}(\omega, \lambda)| = [\lambda]^{<\omega} \times 2^{<\omega} = \lambda \times \omega = \lambda. そこで,先の補題においてλ:=ω1\lambda \mathrel{:=} \omega_1, ν:=λ\nu \mathrel{:=} \lambda, μ:=ω\mu \mathrel{:=} \omegaとおけば, θ=(λ<ω1)ω=λω=λ\theta = (\lambda^{<\omega_1})^\omega = \lambda^\omega = \lambda(最後の==GCH\mathrm{GCH}およびcfλ>ω\mathrm{cf} \lambda > \omegaより). よってAdd(ω,λ)2ω=λˇ.\mathop{\mathsf{Add}}(\omega, \lambda) \Vdash 2^\omega = \check{\lambda}.

Hamkinsの〈自然主義〉強制法

最後に,Hamkins  [1]らの「自然主義的」な強制法の説明について説明しましょう. そのままではVBV^{\mathbb{B}}はBoole値モデルであって普通のモデルではないが,それをB\mathbb{B}上の超フィルターで割ることによって通常の(定義可能なクラス)モデルを得よう,という考え方です.

U\mathcal{U}B\mathbb{B}上の超フィルターとする. この時,VB/UV^{\mathbb{B}}/\mathcal{U}, VˇU\check{V}_{\mathcal{U}}およびjU:VVˇUj_{\mathcal{U}}: V \to \check{V}_{\mathcal{U}}を次で定める: x˙Uy˙defx˙=y˙U,[x˙]U:=({y˙VB  |  x˙Uy˙}の中でランク最小のもの全体)[x˙]UE[y˙]Udefx˙y˙U,VB/U:=({[x˙]U  |  x˙VB},E),VˇU:={[σ]UVB/U  |  σVˇU},jU(x):=[xˇ]U.\begin{gathered} \dot{x} \sim_{\mathcal{U}} \dot{y} \xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \left\| \dot{x} = \dot{y} \right\|_{\,} \in \mathcal{U}, \qquad{} [\dot{x}]_{\mathcal{U}} \mathrel{:=} \left(\left\{\: \dot{y} \in V^{\mathbb{B}} \;\middle|\; \dot{x} \sim_{\mathcal{U}} \dot{y} \:\right\} \text{の中でランク最小のもの全体}\right)\\{} [\dot{x}]_{\mathcal{U}} \mathrel{E} [\dot{y}]_{\mathcal{U}} \xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \left\| \dot{x} \in \dot{y} \right\|_{\,} \in \mathcal{U},\qquad V^{\mathbb{B}} / \mathcal{U} \mathrel{:=} (\left\{\: [\dot{x}]_{\mathcal{U}} \;\middle|\; \dot{x} \in V^{\mathbb{B}} \:\right\}, \mathrel{E}),\\ \check{V}_{\mathcal{U}} \mathrel{:=} \left\{\: [\sigma]_{\mathcal{U}} \in V^{\mathbb{B}}/\mathcal{U} \;\middle|\; \left\| \sigma \in \check{V} \right\|_{\,} \in \mathcal{U} \:\right\},\\ j_{\mathcal{U}}(x) \mathrel{:=} [\check{x}]_{\mathcal{U}}. \end{gathered}

VˇU\check{V}_\mathcal{U}Boole超冪と呼ぶ.

任意のcBa B\mathbb{B}に対して,定義可能なクラスへの初等埋め込みj:VVˉj: V \xrightarrow{\prec} \bar{V}Vˉ\bar{V}上のBˉ:=j(B)\bar{\mathbb{B}} \mathrel{:=} j(\mathbb{B})-ジェネリックフィルターGˉV\bar{G} \in Vが存在する. VVˉVˉ[Gˉ].V \prec \bar{V} \subseteq \bar{V}[\bar{G}]. 特に,Vˉ[Gˉ]\bar{V}[\bar{G}]jjVVで定義可能クラスになっている.

Proof. U\mathcal{U}を適当なB\mathbb{B}上の超フィルターとして,Vˉ:=VˇU\bar{V} \mathrel{:=} \check{V}_{\mathcal{U}}, j:=jUj \mathrel{:=} j_{\mathcal{U}}Gˉ:=[G˙]U\bar{G} \mathrel{:=} [\dot{G}]_{\mathcal{U}}とおけばよい.

ここで重要なのは,U\mathcal{U}は超フィルターならなんでもいいという事です. これは,VVは普通の\in-モデルであるのに対して,VˇU\check{V}_{\mathcal{U}}などは一般に整礎とは限らないEEを所属関係に持ち,更にGˉV\bar{G} \in Vは(メタ的にVV上と見做せるにしても)Vˉ\bar{V}上のジェネリックフィルターであってVV上のものではないためです.

更に,Łośの定理に相当する,次の定理が成り立ちます:

超フィルターU\mathcal{U}に対しφ(τ)U    VB/Uφ([τ]U)\left\| \varphi(\tau) \right\|_{\,} \in \mathcal{U} \iff V^{\mathbb B} / \mathcal{U} \models \varphi([\tau]_{\mathcal{U}}).

これには,次の定理が必要になります:

論理式φ[x,y]\varphi[x, \vec{y}]に対し,x˙VB\dot{x} \in V^{\mathbb{B}}xφ[x,σ]=φ[x˙,σ]\left\| \exists x \: \varphi[x, \vec{\sigma}] \right\|_{\,} = \left\| \varphi[\dot{x}, \vec{\sigma}] \right\|_{\,}を満たすものが存在する.

Proof. b:=xφ(x˙)b \mathrel{:=} \left\| \exists x \: \varphi(\dot{x}) \right\|_{\,}とすると,定義から, b=x˙VBφ(x˙).b = \sum_{\dot{x} \in V^\mathbb{B}} \left\| \varphi(\dot{x}) \right\|_{\,}. そこでS:={φ(x˙)  |  x˙VB}S \mathrel{:=} \left\{\: \left\| \varphi(\dot{x}) \right\|_{\,} \;\middle|\; \dot{x} \in V^{\mathbb{B}} \:\right\}とおいて,SSの元以下の所で極大な反鎖ASA \subseteq \mathop{\downarrow} Sを取る. この時A=b\sum A = b. そこで,各元pAp \in Aに対して,pφ(σp)p \leq \left\| \varphi(\sigma_p) \right\|_{\,}となるようなσp\sigma_pを固定しておく. すると,x˙:={τ,pq  |  pA,τ,qσp}\dot{x} \mathrel{:=} \left\{\: \left\langle \tau, p \cdot q \right\rangle \;\middle|\; p \in A, \left\langle \tau, q \right\rangle \in \sigma_p \:\right\}が求めるものとなる. 定め方より各pAp \in Aに対しpφ(x˙)p \leq \left\| \varphi(\dot{x}) \right\|_{\,}となるのでb=Aφ(x˙)b = \sum A \leq \left\| \varphi(\dot{x}) \right\|_{\,}. 一方でx˙VB\dot{x} \in V^{\mathbb{B}}なので定義よりφ(x˙)S\left\| \varphi(\dot{x}) \right\|_{\,} \in Sとなるので,φ(x˙)S=b\left\| \varphi(\dot{x}) \right\|_{\,} \leq \sum S = b.

Proof of Theorem 10. 原子論理式については,定義から明らか.

複合論理式については,論理式の長さに関する帰納法で示す. Boole結合について: ¬φ=φU    φU( U:フィルタ)    VB/Uφ(帰納法の仮定)    VB/U¬φ.φψ=φψU    φ,ψU(U:フィルタ)    VB/Uφ,ψ(帰納法の仮定)    VB/Uφψ\begin{alignedat}{2} \left\| \neg \varphi \right\|_{\,} = - \left\| \varphi \right\|_{\,} \in \mathcal{U} &\iff \left\| \varphi \right\|_{\,} \notin \mathcal{U} &\qquad& (\because\ \mathcal{U}: \text{フィルタ})\\ &\iff V^{\mathbb B}/\mathcal{U} \nvDash \varphi && (\text{帰納法の仮定})\\ &\iff V^{\mathbb B}/\mathcal{U} \models \neg \varphi.\\ \left\| \varphi \wedge \psi \right\|_{\,} = \left\| \varphi \right\|_{\,} \cdot \left\| \psi \right\|_{\,} \in \mathcal{U} &\iff \left\| \varphi \right\|_{\,}, \left\| \psi \right\|_{\,} \in \mathcal{U} & & (\mathcal{U}: \text{フィルタ}) \\ &\iff V^{\mathbb{B}}/\mathcal{U} \models \varphi, \psi && (\text{帰納法の仮定})\\ &\iff V^{\mathbb{B}}/\mathcal{U} \models \varphi \wedge \psi \end{alignedat} 最後に量化子について.特に存在量化だけ考えればよい. 極大原理によりφ(x)\varphi(x)に対してφ(x˙)=xφ(x)\left\| \varphi(\dot{x}) \right\|_{\,} = \left\| \exists x \: \varphi(x) \right\|_{\,}となるx˙\dot{x}を取れば, xφ(x)=φ(x˙)U    VB/Uφ([x˙]U)    VB/Uxφ(x).\begin{aligned} \left\| \exists x \: \varphi(x) \right\|_{\,} = \left\| \varphi(\dot{x}) \right\|_{\,} \in \mathcal{U} \iff V^{\mathbb{B}}/{\mathcal{U}} \models \varphi([\dot{x}]_{\mathcal{U}}) \implies V^{\mathbb{B}}/\mathcal{U} \models \exists x \: \varphi(x). \end{aligned} また,VB/Uxφ(x)V^{\mathbb{B}}/\mathcal{U} \models \exists x \: \varphi(x)とすると, [y˙]VB/U[\dot{y}] \in V^{\mathbb{B}}/\mathcal{U}があって, VB/Uxφ(x)    VB/Uφ([y˙]U)    xφ(x)=z˙φ(z˙)φ(y˙)U(帰納法の仮定).    xφ(x)U(U:フィルタ).\begin{alignedat}{2} V^{\mathbb{B}}/\mathcal{U} \models \exists x \: \varphi(x) &\implies V^{\mathbb{B}}/\mathcal{U} \models \varphi([\dot{y}]_{\mathcal{U}})\\ &\iff \left\| \exists x \: \varphi(x) \right\|_{\,} = \sum_{\dot{z}} \left\| \varphi(\dot{z}) \right\|_{\,} \geq \left\| \varphi(\dot{y}) \right\|_{\,} \in \mathcal{U} &\quad& (\text{帰納法の仮定}).\\ &\implies \left\| \exists x \: \varphi(x) \right\|_{\,} \in \mathcal{U} && (\mathcal{U}: \text{フィルタ}). \end{alignedat} よってxφ(x)U    VB/Uxφ(x)\left\| \exists x \: \varphi(x) \right\|_{\,} \in \mathcal{U} \iff V^{\mathbb{B}}/\mathcal{U} \models \exists x \in \varphi(x).

VB/UZFCV^{\mathbb{B}}/\mathcal{U} \models \mathrm{ZFC}.

つまり,強制法とはφU\left\| \varphi \right\|_{\,} \in \mathcal{U}を満たす超フィルタを見付けてVB/UV^{\mathbb{B}}/\mathcal{U}を考えることに外ならなかった訳です. そして,多くの場合はφ=1\left\| \varphi \right\|_{\,} = \mathbb{1}なので,これは自明になりたっていた,という事です.

特に,ジェネリックフィルタGGによるBoole超冪である場合は,VˇGV\check{V}_G \simeq Vとなります:

必ずしもVVに属するとは限らない超フィルタUUについて,次は同値:

  1. UUVV上ジェネリック

  2. jUj_Uは自明でVVからVˇU\check{V}_Uへの同型射となる.

Proof. (1)    (2)\href{\#item:U-generic}{(1)} \implies \href{\#item:jU-iso}{(2)}を示す. [σ]VˇU[\sigma] \in \check{V}_Uをとれば,b:=σVˇUb \mathrel{:=} \left\| \sigma \in \check{V} \right\|_{\,} \in Uである. この時,A:={σ=xˇ  |  xV,σ=xˇ0}VA \mathrel{:=} \left\{\: \left\| \sigma = \check{x} \right\|_{\,} \;\middle|\; x \in V, \left\| \sigma = \check{x} \right\|_{\,} \neq \mathbb{0} \:\right\} \in Vbb以下の極大反鎖なので,UUのジェネリック性からUAU \cap A \neq \emptyset. そこで唯一に決まるσ=xˇU\left\| \sigma = \check{x} \right\|_{\,} \in Uが取れ,[σ]=[xˇ]=jU(x)[\sigma] = [\check{x}] = j_U(x)を得る. したがってjUj_Uは全射であり,初等性から同型となる.

逆に(2)    (1)\href{\#item:jU-iso}{(2)} \implies \href{\#item:U-generic}{(1)}を示す. jUj_Uを同型とする. AVA \in VB\mathbb{B}の極大反鎖とした時,aAa \in Aに対しa=aˇ=σa = \left\| \check{a} = \sigma \right\|_{\,}を満たすようなB\mathbb{B}-名称σVB\sigma \in V^{\mathbb{B}}が取れる. このときτAˇ=1\left\| \tau \in \check{A} \right\|_{\,} = \mathbb{1}となるので,特にτVˇ=1\left\| \tau \in \check{V} \right\|_{\,} = \mathbb{1}となり[τ]VˇU[\tau] \in \check{V}_U. いま,jUj_Uは同型なので,σ=xˇU\left\| \sigma = \check{x} \right\|_{\,} \in Uを満たすxVx \in Vが存在し,更にσaˇ\left\| \sigma \in \check{a} \right\|_{\,}よりxAx \in Aでなくてはならない. するとx=x=σUx = \left\| x = \sigma \right\|_{\,} \in Uとなり,xAUx \in A \cap U \neq \emptysetを得, 従ってUUVV上ジェネリック.

通常の超冪とBoole超冪の関係

以下では,「Boole超冪」VˇU\check{V}_{\mathcal{U}}が本当に超冪の一般化となっている事を見ます. そのために,VˇU\check{V}_{\mathcal{U}}の代数的な表示を与えることにしましょう.

  • 極大反鎖A,BBA, B \subseteq \mathbb{B}に対し,xAyBxy\forall x \in A \: \exists y \in B \: x \leq yが成り立つとき,AABB細分であるといいABA \leq Bと書く.

  • 極大反鎖A,BA, Bに対し,AB:={ab  |  aA,bB,ab>0}A \wedge B \mathrel{:=} \left\{\: a \cdot b \;\middle|\; a \in A, b \in B, a\cdot b > 0 \:\right\}ABA,BA \wedge B \leq A, Bとなる最大の極大反鎖である.

  • f:AMf: A \to M被覆関数 def\xLeftrightarrow{\mathrm{def}} AAB\mathcal{B}の極大反鎖.

  • f:AMf: A \to Mを被覆関数,BAB \leq AAAの細分とする時,ffBBへの簡約(fBf \mathbin{\downarrow} B)を次で定める: (fB)(b):=f(a)for the unique aA with ab.(f \mathbin{\downarrow} B)(b) \mathrel{:=} f(a) \quad \text{for the unique } a \in A \text{ with } a \geq b.

  • MB:={f:AM  |  f:被覆関数}M^{\mathop{\downarrow} \mathbb{B}} \mathrel{:=} \left\{\: f: A \to M \;\middle|\; f: \text{被覆関数} \:\right\}

  • f,gMBf, g \in M^{\mathop{\downarrow} \mathbb{B}}と超フィルタU\mathcal{U}に対し,fUgf \equiv_\mathcal{U} gを次で定める: fUg    {cAB  |  (f(AB))(c)=(g(AB))(c)}Uf \equiv_{\mathcal{U}} g \iff \sum \left\{\: c \in A \wedge B \;\middle|\; (f \mathbin{\downarrow} (A \wedge B))(c) = (g \mathbin{\downarrow} (A \wedge B))(c) \:\right\} \in \mathcal{U} ffU\equiv_\mathcal{U}に関する同値類を[f]U[f]^*_{\mathcal{U}}と表す.

  • MUB:={[f]U  |  fMB}M^{\mathop{\downarrow} \mathbb{B}}_\mathcal{U} \mathrel{:=} \left\{\: [f]^*_{\mathcal{U}} \;\middle|\; f \in M^{\mathop{\downarrow} \mathbb{B}} \:\right\}を関数的Boole超冪と呼ぶ.

    関係記号RRの解釈は次で定める: MUBR([f1],,[fn])def{c1indom(fi)  |  MR(f1(c),fn(c))}U.M^{\mathop{\downarrow} \mathbb{B}}_\mathcal{U} \models R([f_1], \dots, [f_n]) \xLeftrightarrow{\mathrm{def}} \sum \left\{\: c \in \bigwedge_{1 \leq i \leq n} \mathrm{dom}(f_i) \;\middle|\; M \models R(f_1(c), \dots f_n(c)) \:\right\} \in \mathcal{U}.

  • xMx \in Mに対し,x^(1)=x\hat{x}(\mathbb{1}) = xによりx^:{1}M\hat{x}: \left\{ \mathbb{1} \right\} \to Mを定める. x^MB\hat{x} \in M^{\mathop{\downarrow} \mathbb B}であり,j(x)=x^j(x) = \hat{x}は初等埋め込み.

次の図式を可換にする同型π\piが存在する:

Diagram

Proof. f:AMMBf: A \to M \in M^{\mathop{\downarrow} \mathbb{B}}に対して,π(f):=τfMB\pi(f) \mathrel{:=} \tau_f \in M^{\mathbb B}を次で定める: τf:={xˇ,a  |  aA,xf(a)}.\tau_f \mathrel{:=} \left\{\: \left\langle \check{x}, a \right\rangle \;\middle|\; a \in A, x \in f(a) \:\right\}. ここで,BAB \leq Aなら定義よりτf=τfB=1\left\| \tau_f = \tau_{f \mathbin{\downarrow} B} \right\|_{\,} = \mathbb{1}かつaτf=f(a)ˇa \leq \left\| \tau_f = \check{f(a)} \right\|_{\,}となることに注意しよう.

まずこの対応が\sim\equivを保つことを観よう. そこで,f:AMf : A \to M, g:BMg: B \to Mを任意にとってC:=ABC \mathrel{:=} A \wedge Bかつf=fCf^* = f \mathbin{\downarrow} C, g:=gCg^* \mathrel{:=} g \mathbin{\downarrow} Cとおく. 今,任意のcCc \in Cについて, cτf=τg=cf(c)ˇ=g(c)ˇ={c(f(c)=g(c))0(otherwise)\begin{aligned} c \cdot \left\| \tau_{f^*} = \tau_{g^*} \right\|_{\,} = c \cdot \left\| \check{f^*(c)} = \check{g^*(c)} \right\|_{\,} = \begin{cases} c & (f^*(c) = g^*(c))\\ 0 & (\text{otherwise}) \end{cases} \end{aligned} したがって, fUg    τf=τg={cC  |  (fC)(c)=(gC)(c)}U    τfUτg.\begin{aligned} f \equiv_\mathcal{U} g &\iff \left\| \tau_f = \tau_g \right\|_{\,} = \sum \left\{\: c \in C \;\middle|\; (f \mathbin{\downarrow} C)(c) = (g \mathbin{\downarrow} C)(c) \:\right\} \in \mathcal{U}\\ &\iff \tau_f \sim_{\mathcal{U}} \tau_g. \end{aligned} 以上から,写像[f]U[τf]U[f]^*_{\mathcal{U}} \mapsto [\tau_f]_{\mathcal{U}}はwell-definedであり単射となる. また,各関係記号についても同様の議論からMˇUR([τf]U)    MUBR([f]U)\check{M}_{\mathcal{U}} \models R([\tau_f]_{\mathcal{U}}) \iff M^{\mathop{\downarrow} \mathbb{B}}_\mathcal{U} \models R([f]^*_{\mathcal{U}})が言える.

よって,あとはこの対応が全射であることが言えればよい. そこで,[τ]UMˇU[\tau]_\mathcal{U} \in \check{M}_\mathcal{U}を取ると,U\sim_{\mathcal{U}}の定義からτVˇ=1\left\| \tau \in \check{V} \right\|_{\,} = \mathbb{1}であるとしてよい. そこで,A={τ=xˇ  |  xM,τ=xˇ0}A = \left\{\: \left\| \tau = \check{x} \right\|_{\,} \;\middle|\; x \in M, \left\| \tau = \check{x} \right\|_{\,} \neq \mathbb{0} \:\right\}として,f(τ=xˇ)=xf(\left\| \tau = \check{x} \right\|_{\,}) = xにより定めれば,明らかに[τ]=[τfτ][\tau] = [\tau_{f_\tau}]かつ[fτf]=[f][f_{\tau_f}]^* = [f]^*を満たす. よってこれらは同型であり,更に[xˇ][\check{x}][x^][\hat{x}]を互いに写し合うので,初等埋め込みも可換.

通常のII上の超フィルターによる超冪はP(I)\mathop{\mathcal{P}}(I)によるBoole超冪と一致する.

Proof. P(I)\mathop{\mathcal{P}}(I)の場合,A:={{i}  |  iI}\mathcal{A} \mathrel{:=} \left\{\: \left\{ i \right\} \;\middle|\; i \in I \:\right\}が最小の極大反鎖となる. ここでA\mathcal{A}IIは自然に同一視出来,この同一視の下で超冪はBoole超冪と見做せるし,初等埋め込み写像も自然に同一視出来る.

更新履歴

  • 2016/07/11 11:00:00 JST 公開

  • 2020/06/22 14:30:00 JST パラメータが真のクラスを渡る上限・下限について追記

  • 2022/06/11 18:00:00 JST 推移的モデルについて絶対的な概念として誤って「可算である」を挙げていたので削除。

参考文献

[1]
J. D. Hamkins and D. E. Seabold, “Well-founded boolean ultrapowers as large cardinal embeddings,” 26-Jun-2012. [Online]. Available: https://arxiv.org/abs/1206.6075.
[2]
R. Laver, Certain very large cardinals are not created in small forcing extensions,” Annals of Pure and Applied Logic, vol. 149, no. 1, pp. 1–6, 2007.
[3]
石井大海, “絶対性チートシート,” 2016. [Online]. Available: http://konn-san.com/math/absoluteness-cheatsheet.html.
[4]
K. Kunen, Set theory, vol. 34. College Publications, 2011.
[5]
塩谷真弘, “数理論理学IA・IB講義資料,” 2014.
[6]
加茂静夫, “集合論のブール値模型,” 2007. [Online]. Available: http://www.mi.s.osakafu-u.ac.jp/kada/lss07/kamo-booleanvaluedmodel.pdf.
[7]
T. Jech, Set theory: The third millennium edition, revised and expanded, 3rd ed. Springer-Verlag Berlin Heidelberg New York, 2002.

  1. 置換公理図式に現れる論理式にVˇ\check{V}を入れてよいかどうか?という疑問が沸くかもしれません.ここでは立ち入りませんが,実はVBV^{\mathbb{B}}VVを定義出来ることが知られています  [2].なので,置換公理図式の中にVˇ\check{V}が入っていても問題はありません.詳細は拙稿『集合論の地質学1:概観と基礎モデルの定義可能性』を参照の事.↩︎


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