非自明なκ-c.c. 強制法は2<κの部分集合を足す
まずは上の (2)を示そう.
これは次のようにして示せる:
Pが非自明なκ-c.c. 強制概念ならPは新たな2<κの部分集合を足す.
Proof. T˙をVに属さない順序数の集合の名前とする:⊩P“T˙∈P(On)∖Vˇ”. 十分大きなθをとり,次を満たすM≺Hθをとる:
∣M∣≤2<κ,
<κM⊆M,
T˙,P,κ∈M.
S˙を⊩PS˙=T˙∩MˇなるP-名称とする. このとき⊩P“S˙∈/Vˇ”が示せれば良い. そこでp∈PとS∈P(2<κ)∩Vでp⊩“S˙=Sˇ”となるものがあったとして矛盾を導く.
簡単のためPは完備Boole代数だとして,p:=[[S˙=Sˇ]]>0とならPが濃度κの反鎖を持つことを示せばよい(背理法).
発想としては,S˙の値がSˇと途中の桁までは一致するが,ある点で食い違うように強制する条件の列が求めるものになる.
具体的には,以下を満たすようにξα∈M∩Onおよびpα,qα∈P∩Mをとっていく:
0<pβ,qβ≤pα and p≤pα if α<β<κ,
ξα∈Sならpα⊩ξˇα∈T˙ and qα⊩ξˇ∈/T˙. ξα∈/Sならpαとqαの役割を逆にする.
こうすれば,A={qα∣α<κ}が濃度κの反鎖となるのは明らかである.
では実際にとっていく. γ<κに対して,⟨pα,qβ∣β<γ⟩まで上記を満たすように取れているとする. Mが<κ-列で閉じていることから⟨pα∣α<γ⟩∈Mとなり,特にp′:=∏α<γpα∈Mである. 特に,pαたちはSˇを近似するようにとれているから,p=[[S˙=Sˇ]]より0<p≤p′となる事に注意する.
一方,初等性よりM⊨“⊩PT˙∈/Vˇ”なので,ξγ∈M∩Onでp′⋅[[ξγ∈T˙]],p′⋅[[ξγ∈/T˙]]が共に正となるものが取れる.
そこでξγ∈Sならpγ:=p′⋅[[ξγ∈T˙]], qγ:=p′⋅[[ξγ∈/T˙]]とし,そうでなければ逆になるようにpγ,qγを定めれば,上記の条件を満たすように取れる.
よって望み通りA={qα∣α<κ}が取れた.
ここでもしα<βならqαとqβはξαのT˙への所属の可否で互いに食い違っているので両立しないから,Aは濃度κのPの反鎖となる.
Pがκ-c.c. 強制概念,Gが(V,P)-生成的でP(2<κ)∩V=P(2<κ)∩V[G]なら,V=V[G].
大域被覆性からκ-c.c. 強制法を得る
よって,後は上の (1),つまり(W,V)がκ-大域被覆性質を持つなら,Vの任意の元をκ-c.c. 強制法で付け加えられる事を示そう.
より強く,任意のx∈Vが何らかのκ-c.c. 強制法Px∈Wの生成フィルターGxと一対一に対応しており,V[Gx]がxを含む最小のVの拡大となることを示す.
いま,我々が考えているのはZFCのモデルだけであり,任意の集合は順序数の集合でコードできる.
よって,特にVの順序数の集合についてだけ考えれば良い.
そこで,ある特定の順序数の部分集合の情報を記述するのに十分な無限論理の体系を考えよう.
κ≤μを無限基数とする. 無限論理L:=Lκ(μ)を次で定める:
- 述語記号
-
各ξ<μに対しξˇ∈a˙をゼロ項述語記号(述語定数)とする.
- 論理式
-
原子論理式“ξˇ∈a˙”は論理式である.
φが論理式なら¬φも論理式.
Γ⊆Lがκ個未満の論理式の集合なら,⋁⋁Γも論理式.
適当な集合A⊆μに対して,自然にLκ(μ)-構造が定まる:
φをLκ(μ)-論理式,A⊆μとする. 充足関係A⊨φを次で定める:
A⊨“ξˇ∈a˙”defξ∈A,
A⊨¬φdefA⊭φ,
A⊨⋁⋁Γdef∃φ∈ΓA⊨φ.
また,公理系Γ⊆Lκ(μ)に対し,A⊨Γは∀φ∈ΓA⊨φのこととする.
以上で無限論理の意味論は与えたので,今度は証明体系も与えたい.
無限長のオブジェクトを扱っているので,何処で考えるかによって証明体系は変わってきそうである.
つまり,Wを含む(推移的)モデルの間で,“Γ⊢φ”の意味がかわらないようにしたい. だって,Wの中で「φはΓの定理だよ!」と言うのに,より広いVの中で「定理じゃないよ!」ということになっていては困る.
これには,実際に無限長の論理式と証明木を使って定義する方法もある(Friedman–Fuchino–Sakai
[2]を参照)が,今回は強制法と記述集合論の結果を使ってやることにする.
その中心的な役割を担うのが,次の崩壊強制法である:
順序数α≥ωを可算に潰す崩壊強制Col(ω,α)とは<ωαを台集合とし,p≤qdefp⊇qにより順序を定めたものである.
なぜ可算に潰すような強制法を考えるのかといえば,崩壊強制法によりWにおけるL-論理式の全体を可算にしてしまえば,各論理式φ∈LκW(μ)はあるBorel集合と同一視出来るからである.
なぜか? まずν=(μ<κ)Wが可算になっているので,まずμは可算集合であり,各元ξ<μは自然数n<ωと一対一に対応させられる.
このとき,原子論理式n∈a˙は,「a˙の二進展開のn桁目が1になる」という命題だと思え,これはω2の基本開集合に当たる.
否定や無限選言を取る所も,集合演算としては補集合と可算和を取るところに対応している.
それで閉じているのがLκ(μ)だから,結局A⊨φはAが「コード」している実数がφの定めるBorel集合に含まれているか?という述語に他ならないのである.
では,Borel集合としてコード出来ると何が嬉しいのか?実は,実数の集合論において次の絶対性が成り立つことが知られている:
Π11-論理式は任意の推移的モデルの間で絶対的.
即ち,M⊆Vが推移的モデルだとして,φがMにパラメータを持つ論理式で,Borel集合を定義するとする:M⊨“{(x,z)∣φ(x,z)}:Borel”. この時,x∈Mに対し: M⊨∀zφ(x,z)⟺V⊨∀zφ(x,z).
証明はたとえば拙稿「絶対性チートシート」 [4]を参照.
これを踏まえて,WにおけるLの公理系の「証明」体系を次のように定めよう:
Γ⊆Lκ(μ),φ∈Lκ(μ)とする. この時,証明可能性述語Γ⊢φを次で定める: Γ⊢Lκ(μ)φdef⊩Col(ω,μ<κ)“∀A⊨ΓA⊨φ”. ⊥:≡⋁⋁∅を矛盾と呼ぶ. Γ⊬⊥の時Γは無矛盾であるという.
すると,上のMostowski絶対性を認めれば,Γ⊢φの「絶対性」が言える:
W⊆Vを推移的モデルとする. Γ,φ∈WをそれぞれWにおけるLκ(μ)-理論とLκ(μ)-論理式とすると,
Γ⊢Lκ(μ)Wφ⟺Γ⊢Lκ(μ)Vφ.
Proof. 以下,νW:=(μ<κ)W,νV:=(μ<κ)Vと表す.
「A⊨φ」はBorelなのでどんな推移的モデルで見ても変わらない.
よって,上の定義からΓ⊢φはΠ11で書ける性質である.
WCol(ω,νW)⊆VCol(ω,νV)に気を付ければ,Mostowski絶対性より, WCol(ω,νW)⊨“∀A⊨ΓA⊨φ”⟺VCol(ω,νV)⊨“∀A⊨ΓA⊨φ”
「公理系Γが無矛盾」は推移的モデルの間で絶対.
さて,いよいよLを使ってκ-c.c. 強制法を定義する.
g:[L]κ→[L]<κがg(Γ)⊆Γを満たすとする.
φがg-違法(g-illegal) def ∃Γ∈[L]κ∩Wφ∈Γ∖g(Γ).
理論Tg⊆Lはg-違法な論理式φとφ∈Γ∖g(Γ)なるΓに対し,次の形の論理式からなる:
φ→⋁⋁g(Γ)(≡⋁⋁{¬φ,⋁⋁g(Γ)}).
強制概念(Pg,≤)を次で定める: Pg:={φ∈L∣Tg∪{φ}:無矛盾}φ≤ψdefTg∪{φ}⊢ψ.
まず,こうして定めたPgが目的通りκ-c.c. を満たすことを見よう.
Pgはκ-c.c. を持つ.
Proof. Γ⊆[Pg]κを任意に取る. φ∈Γ∖g(Γ)を一つとれば,Tgの定義からφ→⋁⋁g(Γ)∈Tgなので,順序の定義よりφ≤⋁⋁g(Γ)となる. このとき,⋁⋁∅はTgと「矛盾」するので,g(Γ)=∅である.
そこでψ∈g(Γ)を取れば,ψ=φでありφ,ψは明らかに両立する. よってΓは反鎖ではない.
gの選び方によってはどうあっても矛盾するのでPg=∅になるかもしれないし,自明な元しか持たないかもしれない.
しかし,Tgはある集合をPgの形でコード出来るかを知るための十分条件を与えてくれる:
W⊆VをZFCを満たす内部モデル, W⊨g:[L]κ→[L]<κとし,P:=PgWとおく. ここで,A∈P(μ)∩VがA⊨(Tg)Wを満たすなら, GA:={φ∈Pg∣A⊨φ}
は(W,P)-生成フィルターであり,A={ξ<μ∣∣“ξˇ∈a˙”∈GA}∈W[GA]はWとAを含む最小のZFCの推移的モデルとなっている.
Proof. GAがフィルターとなること,A={ξ<μ∣∣“ξˇ∈a˙”∈GA}となることは良い. また,AとGAは互いの情報を過不足なく持っているので,W[GA]が生成拡大であることさえ言えれば,強制定理から最小性も従う.
そこでGAのW上の生成性を示そう. A∈WをPの極大反鎖とすると,PがWでκ-c.c. を持つことから∣A∣W<κとなるので,⋁⋁AはLの論理式である. ここでGAと⋁⋁の定義よりGA∩A=∅とA⊨⋁⋁Aは同値である事に注意する. よって,もしG∩A=∅ならA⊨¬⋁⋁Aとなる. すると注意 3よりVでTg∪{¬⋁⋁A}は無矛盾となり,無矛盾性の絶対性(系 3)よりWでも無矛盾である. よってGAとPgの定義から“¬⋁⋁A”∈GAを得る. するとA∩GA=∅よりA′:=A∪{¬⋁⋁A}はAを真に含む反鎖となるが,これはAの極大性に反する.
よって,あとはどんなAに対してもA⊨(Tg)Wとなるようなg∈Wが取れることが言えればよい. しかし,これはκ-大域被覆性質から直ちに従う:
(W,V)がκ-大域被覆性質を満たすなら,任意のA⊆μに対しA⊨Tgとなるg∈Wが取れる.
Proof. Vにおいてf:[L]κ∩W→Lを次で定める: f(Γ):={φarbitrary(if φ∈Γ,A⊨φ)(otherwise). この時,L-論理式を適切に添え字づけておけば,κ-被覆性質からg∈W,g:[L]κ∩W→[L]<κ∩Wでf(Γ)∈g(Γ)を満たすものが取れる. すると取り方から明らかにA⊨Tgとなるので,補題 5よりGAはAをコードする(V,Pg)-生成集合となる.
以上から直ちに目標の次の系が得られる:
(W,V)がκ-大域被覆性質を満たすなら,任意のx∈VはWのあるκ-c.c. 強制法Px∈Wにより付加される.
特に,x∈Vは(W,Px)-生成的となる.